コラム

東芝は悪くない

2017年03月28日(火)16時00分

日本企業はリスクをとらなすぎる。よくそう言われるが、それは全くの間違いどころが、180度逆で、リスクを取り過ぎるのである。アップルもグーグルもリスクはほとんど取らずに利益を上げている。マイクロソフトもそうだ。ユニクロも同じだ。

リスクをとってリターンを上げるのは、ギャンブルという。日本人も日本企業もギャンブル好きなのである。実際、社運を賭けた投資、という言葉をよく使う。投資なんかに社運を賭けられたら困るのである。

東芝のWHへの投資は無謀であり、リスクをわざわざあえて取り、利益を度外視して行った意思決定なのである。それでは倒産の瀬戸際まできた危機になって当たり前だ。社運を賭けたのだから、それが間違いなら、社運は尽きる。

では、東芝はなぜそんなリスクをあえてとったのか。

それは事業を成功させたいからである。原発事業で世界一になりたかったからである。それは東芝だけではない。ほとんどすべての日本企業にいえる。

日本企業の目的は、事業に成功することであり、良い製品を作り、製品を売ることが目的なのである。そして事業を継続すること、それがもっとも大事なことだと思っている。すべて100%間違いだ。

リスクを取りたがる理由

そして、東芝はいまでもそう思っている。債務超過を避けるのは、事業を継続するためであり、東芝を残すためである。だから黒字が必要であり、売却益が必要なのである。そうではない。利益が目的だから利益が必要なのである。企業の目的は利益を最大化することであり、そのために、良い製品が必要ならばそれを作ることであり、売ることが必要なら売るだけのことである。利益度外視で売ることはあり得ない。

この誤りは、WHを買収したときだけではない。

天然ガス液化事業でも同じ過ちをしている。このプラントを受注するために、液化天然ガスを20年間に渡って売りさばかなければならないというリスクを引き受けたのである。つまり、固定額でプラントの生み出す製品を買い取る契約をつけて、やっとプラントを受注したのである。そして、この契約は、天然ガスの市場価格が下落すれば、そのまま損失となる。

なぜこんなことをしたのか。

それはプラントを受注するために、取引先が嫌がるリスクを全部引き受けたのである。それはリスクをとって儲けるためではない。とにかくプラントを売りたかったのである。自分たちの製品を売りたかったのである。事業として利益以外ではうまくいってほしかったのである。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story