最新記事
シリーズ日本再発見

日本人だからこそ描けた物語...「本当の日本」が世界の心に刺さったアニメ『ONI』

An Authentic Voice of Japan

2022年11月10日(木)18時01分
ロクシー・サイモンズ
『ONI~神々山のおなり』

おなり(手前)は父なりどんと暮らすおてんば娘 COURTESY OF NETFLIX ©2022

<妖怪や神々の世界を舞台に少女の成長を描く『ONI~神々山のおなり』は、ピクサー出身の2人が興したアニメスタジオの夢の結晶>

正真正銘の日本の声を届けたい──。

アニメ『ONI~神々山のおなり』(ネットフリックスで配信中)を作るに当たり、堤大介監督が強く抱いたのはそんな思いだった。

10月21日に配信を開始した『ONI』は、ヒーローになって悪い鬼を退治したいと奮闘する少女おなりが主人公(声の出演は英語版がモモナ・タマダ/日本語吹き替え版は白石涼子)。

日本の民話や神話がベースなだけあって、天狗やかっぱや雷神が脇を固める。おなりが住む村は鬼の襲来に脅かされ、子供たちは自分のスーパーパワーを目覚めさせようと日々修行に励んでいる。

ハリウッドの視点に合わせるのではなく、可能な限り日本人らしい物語を紡ぎたかったと堤は語る。

「この業界に入って二十数年。生まれも育ちも日本の僕は、アメリカで外国人として、日本人としてアニメの仕事をしながら、いつか日本の文化をテーマに作品を作りたいと夢見ていた。日本で育った人間の目を通し、ハリウッドではなく日本人の声を通して語られる作品がもっとあっていいと思う。そうした企画にネットフリックスが関心を示してくれたときは本当に興奮したし、心から感謝している」

堤と共にエグゼクティブプロデューサーを務めるのが、日系アメリカ人のロバート・コンドウ。2人が日米を拠点にアニメスタジオ「トンコハウス」を立ち上げたのは2014年のことだ。それまで2人はピクサーのアート部門で『トイ・ストーリー3』や『モンスターズ・ユニバーシティ』といったヒット作を手掛け、その経験を生かそうと独立。初の共同監督作『ダム・キーパー』は、15年のアカデミー賞短編アニメーション部門にノミネートされた。

コンドウによれば『ONI』の制作はアニメの世界的大手であるピクサーの頃とはスケールが違う一方で、共通点も多かった。「根っこの部分は似ていた」と、彼は言う。

「キャラクター中心」の作品作りはピクサー譲り

「ピクサーを退社するとき、僕たちはいわば彼らの教科書を何ページか破り取って失敬した。その1つが、キャラクター中心の作品作りだった。スタッフがキャラクターと波長を合わせ、自分たちにしか伝えられない物語の意義を掘り下げる姿勢も、ピクサー譲りだ。キャラクターとスタッフと声優の波長が合うまで、たっぷり時間をかけた」

「アニメ、とりわけテレビアニメはスクリーンに映るもの全てが手作業。だからこそ美術や照明や一つ一つの場面を通して、観客の共感を呼ぶ世界を一からつくることができる。その点もピクサーと変わらない」

トンコハウスが目指すのは「シンプル」なキャラクターだが、おなりや父親のなりどん(クレイグ・ロビンソン)や天狗(ジョージ・タケイ/井上和彦)の肉付けにはかなり苦心したと堤は振り返る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国新疆から撤退を、米労働省高官が企業に呼びかけ 

ビジネス

米8紙、オープンAIとマイクロソフト提訴 著作権侵

ビジネス

米研究開発関連控除、国際課税ルールの適用外求め協議

ビジネス

AI用サーバーの米スーパー・マイクロ、四半期売上高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 5

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 6

    衆院3補選の結果が示す日本のデモクラシーの危機

  • 7

    なぜ女性の「ボディヘア」はいまだタブーなのか?...…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 10

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中