最新記事
シリーズ日本再発見

「復活」ソニーが作ったロボットおもちゃ「toio」とは何か

2017年07月24日(月)12時02分
廣川淳哉

「放課後活動」から正式な研究対象へ

どうやら、市場調査を基に商品開発を行う、マーケティング用語でいうところの「マーケットイン」ではなかったようだ。

しかし、5年前の時点ではその言葉通り、「単なる放課後活動に過ぎなかった」とか。その後、CSLで研究対象として正式に認められたことがプロジェクトを大きく推進させた。

アレクシーさんは、2013年にCSLが開催したシンポジウム「Sony CSL Open House 2013」で、レゴブロックにモーターなどを搭載し操作ができるという、toioのベースとなる機器を初公開。ソニーが持つ電池などの技術を活用し、現実の世界とゲームの世界をつなぐことを可能にするアイデアは、この時すでに形になっていた。

ところが、この研究が商品として世に出るにはさらなるハードルがあった。本体の位置をリアルタイムで把握するために、天井にカメラを仕掛けなければならなかったのだ。天井にカメラを設置するという制約があっては、家庭で遊べる商品として世に送り出すことは難しい。

その課題を解決したのが、3人目の開発者、ソニーの中山哲法さんだ。カメラのソフトウエアエンジニアである中山さんは、特殊なマットと組み合わせた「絶対位置センサー」を搭載することで、カメラで撮影しなくても本体の位置をリアルタイムで把握というアイデアを実現した。

その後、社内で年4回開催される新規事業創出オーディションで見事優勝し、事業化への道が開いたという。商品化に向けたプロジェクトが正式にスタートしたのは、2016年6月のことだった。

「特殊なマットに小さな目印が印刷されていて、光学的な技術を使ってコア キューブがXY座標を読み取っています。そうすることで、2つのコア キューブがマット上のどこにいるかを、常に把握できるようになりました。つまり、コンソールに内蔵したコンピューターからの指示を受けて、常に正確な動きを実行することが可能です。この仕組みによって、コア キューブにかぶせた『目玉生物』という工作生物が、もう1つのコア キューブを追いかけ回しているように見えるんです」

「ゲズンロイド」と「トイオ・コレクション」

目玉生物とは、toioのソフト「工作生物 ゲズンロイド」に含まれる、15の工作生物の1つだ(記事冒頭の写真)。ピンポン玉大の白い球に目玉を描いた目玉生物ユニットをコア キューブにかぶせてマット上で使用すれば、まるでもう1つのコア キューブを目で見て追いかけているような動きをする。

toioはカートリッジを差し替えることで、同じコア キューブを使ってさまざまな遊びを楽しめる。現在は「工作生物 ゲズンロイド」と「トイオ・コレクション」の2タイトルあり、今後、続々とタイトルを増やしていく予定だ。

「工作生物 ゲズンロイド」は、簡単な紙工作でコア キューブをカスタマイズすることで、コア キューブがまるで生きているようなリアルさで動き出すソフト(クリエイティブグループ「ユーフラテス」が監修)。絵本の中にプリントされている動きのプログラムコードをコア キューブに読み込ませることで、紙工作と共にコア キューブが目玉生物になったり、しゃくとり虫になったり、2足歩行ロボットになったりもする。

この生き物のような見え方の実現にも、リアルタイムかつ高精度な絶対位置センサーが大きく貢献している。

japan170724-4.jpg

toioのソフト「工作生物 ゲズンロイド」は、本体とは別売りの工作ブック。これを読みながら紙を使って工作し、toioと組み合わせて遊ぶ。市場推定価格4000円前後(消費税別) Photo:廣川淳哉

【参考記事】スター・ウォーズの球形ロボトイも作ったスフィロ社の教育向けロボット

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中