コラム

AI(人工知能)をめぐる軍拡レース──軍事革命の主導権を握るのは誰か

2021年06月16日(水)16時45分

中国政府は2017年、戦略技術としてAI開発に国家をあげて取り組み、「知能化戦争(Intelligentized Warfere)」でアメリカに対抗する姿勢を打ち出した。

同じ年、ロシアのプーチン大統領も「AI分野でのリーダーが世界の支配者になる」と述べている。実際、シリア内戦ではロシア軍が無人走行の軍用車両を投入して注目を集めた。

中国やロシアだけではない。

2020年10月、ナゴルノ・カラバフ地方の領有権をめぐるアゼルバイジャンとアルメニアの軍事衝突で、アゼルバイジャン軍は「カミカゼ・ドローン」と呼ばれるイスラエル製無人機を用いて、アルメニア軍のロシア製S-300地対空ミサイルを大破させるなどの戦果をあげた。AIを搭載したカミカゼ・ドローンは、一定の空域を飛び回り続け、標的と判断したものに自動的に空爆する。

「アメリカの優位は危機にある」

AIの軍事利用を進める各国は、いち早く実用化することで、市場シェアの拡大とともに、更なるイノベーションに必要な実戦データの蓄積を目指している。

ロボット兵器に関していうと、AIと国防に関する調査会社RAINリサーチの調査では、タイプ別にみて2019年段階で最も多く開発されている軍用の無人航空機(UAV)は、情報収集を主な目的とする小型・戦術UAVで、この分野におけるアメリカと中国の生産量は、それぞれ世界全体の34%、10%だった。

ただし、より技術水準の高い、爆撃能力をもつタイプ(UCAV)になると米中のシェアはそれぞれ37%と31%と差が小さく、中高度・長航続時間UAVに限ればアメリカの15%に対して中国の26%と逆転している。

こうした状況に、国家安全保障委員会の議長を務めるGoogle元CEOのエリック・シュミットは今年3月、「AIにおけるアメリカの優位は危機にある」と述べ、中国やロシアによるサイバー攻撃やフェイクニュース拡散に対抗するために、技術競争力に関する審議会の設立、半導体の国内生産、「軍人と同等に重要な人材育成のため」のデジタルサービスアカデミー設立などを提言した。

国家安全保障委員会にはその他、Amazon、Microsoft、Oracleなどの代表者もメンバーとして名を連ねている。これまで国家権力と距離を保ってきたシリコンバレーにも政府に協力する気運が高まっていることは、AI軍拡レースが本格化したことを意味する。

AI軍拡レースがもたらすリスク

AIの軍事利用、とりわけロボット兵器には自軍兵士の犠牲を減らしたり、人員不足を補ったりする効果が期待されるため、近い将来に多くの国が領空・領海を警備する無人機などを採用することも想定される。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ南部、医療機関向け燃料あと3日で枯渇 WHOが

ワールド

米、対イスラエル弾薬供給一時停止 ラファ侵攻計画踏

ビジネス

米経済の減速必要、インフレ率2%回帰に向け=ボスト

ワールド

中国国家主席、セルビアと「共通の未来」 東欧と関係
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story