コラム

習近平は中国に何を提案したか──中国の新アフリカ戦略の3つのポイント

2018年09月10日(月)17時30分

今回、習氏があえて「アフリカからの輸入」を強調したことは、アフリカ側の不満を和らげ、ひいてはアフリカ各国に中国主導の経済圏に目を向けやすくするものといえる。

これに加えて、トランプ政権が各国に貿易戦争をしかけ、保護主義が蔓延するタイミングで「アフリカからの輸入の増加」を強調することは、もともと貿易依存度の高いアフリカを中国に向かいやすくする。

安全保障協力の本格化

最後に、安全保障協力である。今回の基調演説で習氏は「安全保障」に関して13カ所で触れた。これは第6回FOCACまでと比べて目立って多く、習氏は演説のなかで「平和・安全保障基金」の設立も表明している。

スクリーンショット 2018-09-10 14.04.17.png

南シナ海などで海洋進出の印象が強いものの、中国にとって海外での軍事展開にはリスクも高い。中国はアフリカ進出のなかで「内政不干渉」を強調して他国の紛争や内政に関わることを避け続け、2011年に発生したリビア内戦でも欧米諸国の軍事行動を「帝国主義」と批判することで、自らを差別化してきたからである(この点は第7回FOCACでも強調されている)。

とはいえ、進出が本格化するにつれ、中国企業が紛争やテロに巻き込まれる事態も増えているため、アフリカの平和と安全は中国にとっても重要な課題となりつつある。

その結果、中国は国連PKOへの参加を増やしてきただけでなく、リビア内戦で中国人労働者を救出するために艦艇を派遣したのを皮切りに、2013年に発生した南スーダン内戦では停戦を呼びかけ、2015年にはジブチに中国海軍が基地を構えるなど、安全保障上のプレゼンスも段階的に高めてきた。

第7回FOCACに先立ち、6月に中国国防部はアフリカの50カ国から軍高官を招き、中国・アフリカ防衛・安全保障フォーラムを初めて開催した。これは「一帯一路」の加速とともに今後ますますアフリカの紛争が中国に及ぼす影響を念頭に、中国とアフリカの軍事協力を深める一歩であり、第7回FOCACで習氏はその方針を内外に公式に示したのである。

こうしてみたとき、今回のFOCACで習近平体制は、中国主導の経済圏にアフリカを引き込む意志を、これまでになく明確に打ち出したといえる。その行方は、「一帯一路」の成否にも関わり、ひいては中国のグローバルな影響力にもかかわる。中国のアフリカ進出は、新たなステージに入りつつあるといえるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。他に論文多数。

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

4月工作機械受注は前年比11.6%減、16カ月連続

ビジネス

楽天Gの1─3月期、純損失423億円 携帯事業の赤

ワールド

プーチン大統領、16-17日に訪中 習主席と会談へ

ビジネス

独CPI、4月改定は前年比+2.4% 速報と変わら
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story