コラム

コロナ後の世界経済:米中覇権争いの中での日本の存在感はどうなる?

2021年07月30日(金)15時15分

習近平政権が権力基盤を強める過程で、民間企業に対する規制強化を通じた政治的な統制がより強固になっているのかもしれない。米国との経済覇権争いが、新型コロナ問題をきっかけに更に鮮明になっていることが、より統制的な経済政策をもたらしているとみられる。であれば、最近の米欧と新興国の株式市場の格差は、中国当局による一部企業への規制強化という一過性の材料がもたらしたとの解釈は表層的過ぎるのではないか。

「コロナ後」に向かい各国経済が正常化する過程で、ワクチン戦略に成功して経済安定化政策を強める米国を中心とした先進諸国の優位が強まる。その結果、米欧を中心に中国に対する経済的な封じ込めが強まるシナリオが、織り込まれつつあるのかもしれない。

日本の存在感が高まる余地がある

TOPIX( 7月23日時点)の年初来騰落率は約5%程度と、米欧と中国株の中間に位置する。米欧の投資家から見れば、日本は経済先進国G3の一角ではあるが、経済的な存在感は長年低下して台頭する中国に圧倒された結果、数あるアジアの一国として位置づけられるようになっている。

ただ、今後米中覇権争いが長期化する中で、民主主義を掲げるアジアの大国そして先進国の一員として、国際政治の中で日本の存在感が高まる余地があるだろう。実際に、菅政権が注力したワクチン接種戦略によって、日本が米欧と同様の経済先進国であることは、ギリギリの所で示すことができたと筆者は考えている。

そして、戦時体制に匹敵する財政政策を打ち出した米国に追随して、日本が経済成長を重視するアグレッシブな財政金融政策を実現すれば、株式市場においても、日本が米欧先進国の一員でありかつ経済大国であると再評価されるだろう。今後の菅政権の政権運営次第ではあるが、2021年後半から日本株への金融市場の受け止め方が大きく変わりうる。やや楽観的かもしれないが、その過程で、日本株と米欧株のこれまでの株価パフォーマンス格差は縮小するだろう。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。著書「日本の正しい未来」講談社α新書、など多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story