コラム

それをあなたが言いますか? 菅首相の「ビジョン」に抱いた違和感

2020年11月19日(木)19時10分

CARL COURT-POOL-REUTERS

<「出稼ぎのない世の中をつくりたい」と、菅首相は雑誌に寄稿していた。しかし菅氏が支え続けてきた安倍政権下においてこそ、日本は「出稼ぎに依存する国」へと大きく舵を切ってきたはずだ>

先の自民党総裁選の頃、まだポスト安倍の一候補だった菅義偉官房長官には「ビジョン」や「国家観」がないという指摘を度々目にした。外野は好きに言っていろと本人は思っているかもしれないが、実際どうなのかは確かに気になるところだ。

そんな折、雑誌に「我が政権構想」という題で菅氏の寄稿が載っているのを見つけた。話題の新書『政治家の覚悟』にも再録されている。

読んでみると、こんなことが書かれていた――「私は秋田の寒村のいちご農家に育ち、子どもの頃から『出稼ぎのない世の中をつくりたい』と思っていました」。

例の「地方からのたたき上げ」の文脈の中に、自らが主導したふるさと納税や外国人観光客の誘致拡大といった過去の施策も位置付けているようだ。

この部分を読み、私は「出稼ぎのない世の中」か......としばし絶句してしまった。「それをあなたが言いますか」と思ってしまったのだ。というのは、菅氏が支え続けた安倍政権下においてこそ、日本は「出稼ぎに依存する国」へと大きく舵を切っていたからである。

第2次安倍政権の発足直後、2012年末の在留外国人は203万人にすぎなかった。それが2019年末には293万人と、7年間で90万人も増加している。

内訳を見ると、最も増えたのが「技能実習生」。15万人から41万人と一気に2.7倍だ。アルバイトで働く割合の高い「留学生」も18万人から35万人まで増えた。つまり、外国人急増の主な部分は、日本が海外からの「出稼ぎ」に依存を深めたことの表れなのである。

これは自然現象ではなく政策の結果だ。2018年末には、菅氏自身が原動力となり、外国人労働者受け入れ拡大のための改正入管法をスピード可決している。技能実習生に対する深刻な人権侵害など、さまざまな懸念が示されたにもかかわらずだ。

当時の新聞記事でも、彼は「外国人材の働きなくして日本経済は回らないところまで来ている。高齢者施設をつくった私の知人も、施設で働く介護人材が集まらないと言っていた」と率直に語っている。菅氏こそ外国人の「出稼ぎ」増加を主導してきた人物なのだ。

その彼が語る「出稼ぎのない世の中」......。フェアに見れば、菅氏の中にはやむを得ない「出稼ぎ」のしんどさへの共感があるのだろうと思う。だが、その思いの先に、外国から来る人々は全く入っていない。

プロフィール

望月優大

ライター。ウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長。著書に『ふたつの日本──「移民国家」の建前と現実』 。移民・外国人に関してなど社会的なテーマを中心に発信を継続。非営利団体などへのアドバイザリーも行っている。

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