コラム

習近平は豹変する

2023年01月18日(水)15時08分

中国だけが強い行動制限を続けていることに対して市民の間で不満が高まり、2022年11月には各地でデモが起きた。12月の政策転換は世界の流れや国民感情を考えればしょうがなかった。ただ、政策転換後に予想外に感染が急拡大し、死者も急増したので、転換前に中国政府が言っていた懸念もあながち誇張ではなかったことを逆に証明する結果となった。

昨年12月の第二の大きな変化、それは12月に開催された中央経済工作会議である。こちらの方に注目した日本のマスコミはなかったが、私は注目すべき変化があったと思う。

中国共産党の最高幹部たちは毎年12月に中央経済工作会議を開催して翌年の経済政策の基調を決める。昨年12月15~16日に開催された同会議では、成長と雇用と物価の安定を重視するというコロナ禍以来の経済政策の基調を2023年も維持することを決めた。2022年は厳しいゼロコロナ政策を採ったことによりGDP成長率が3%と低迷したが、それでも成長の回復を焦ることはせず、安定重視で行こうということである。

この点では昨年までの方針を踏襲するものであるが、同会議で示された経済体制に関する方針は前年(2021年)までの中央経済工作会議とは大きく様変わりした。一言でいうと、これまでの民間企業統制の流れから一転して民間企業を重視する姿勢を鮮明にしたのである。

統制から民間活力へ

過去2年の中央経済工作会議では国有企業の役割を重視する一方、大手民間企業を抑えつける方針が示されていた。2020年12月の中央経済工作会議の決定では「反独占を強化し、資本の無秩序な拡張を防止しなくてはならない」として、特にプラットフォーム企業の独占に対する取り締まりを強めることがうたわれていた。実際、2021年4月にはアリババに対して独禁法違反で3000億円にも上る巨額の罰金が科され、6月には配車大手の滴滴がアメリカで株式上場したら、その直後に国家安全を脅かすとして調査が入り、アプリの配布停止を命じられ、後に高額の罰金が科された。

2021年12月の中央経済工作会議の決定は「資本に対して信号機を設けて(何をやってよいか、いけないかを示し)、資本に対する有効な監督を強化し、資本の野蛮な成長を防止しなければならない」と、さらなる規制強化を示唆していた。2022年10月の第20回党大会における習近平の演説では、ベンチャー育成のスローガンとして2014年から李克強首相がたびたび口にしていた「大衆創業、万衆創新( 大 衆 の 起 業 、万 人 の 革 新 )」には言及しなかった。そのため、党大会後に国有企業重視、民間企業統制の方針がさらに強まるように思えた。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インフレなお高水準、まだやることある=カンザスシテ

ビジネス

日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」=

ビジネス

中国BYD、メキシコでハイブリッド・ピックアップを

ワールド

原油先物は上昇、カナダ山火事と米在庫減少予想で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story