コラム

習近平は豹変する

2023年01月18日(水)15時08分

むしろ自信満々?の習近平(2022年12月21日、訪中したロシアのメドベージェフ前大統領と) Sputnik/Yekaterina Shtukina/REUTERS

<ゼロコロナで失敗し経済もボロボロでさぞかし手詰まりだろうと思いきや、習近平は豹変した。突然コロナの行動制限を撤廃しただけでなく、ここ数年の露骨な民間資本への締め付けもやめて民間活力主体の成長を目指すという>

昨年12月から今年1月にかけて、世界は中国の変化に驚かされた。

第一の変化は、言うまでもなく「ゼロコロナ政策」の転換である。「感染が拡大したら医療体制が崩壊して大変なことになる」として、感染地域のロックダウンを繰り返し、PCR検査を徹底して行っていたのが、昨年12月になって突然「オミクロン株は感染しても軽症で済む」からと行動制限を撤廃した。1月16日に北京大学が発表したところによると、2023年1月11日までの累計で9億人が新型コロナに感染したと推計されるという。ゼロコロナ政策の転換以後、驚くべきペースで感染爆発が起きているようである。また、国家衛生健康委員会が1月14日に発表したところによると、2022年12月8日〜2023年1月12日の期間に全国の医療機関で新型コロナの感染者が5万9938人死亡した。その9割以上は血液系や呼吸器系、あるいはがんなどの基礎疾患があった。

新型コロナも流行が始まってから丸3年となり、当初は致死率が高く恐ろしいウイルスだったのが、ワクチンや治療薬の開発もあって、その脅威はだいぶ低下してきた。他方で、2020年に武漢で新型コロナが広まった時は、ロックダウンとPCR検査の徹底によってウイルスを完全に封じ込めることができたが、オミクロン株は感染力が強くて、2020年のような方法で封じ込めることができなくなった。

世界で浮いた中国

こうした状況の変化に対応して、新型コロナ対策もウイルスの封じ込めからウイルスとの共存へどこかのタイミングで舵を切らなければならない。日本では2020年4月に最初の緊急事態宣言を出して外出制限を行ったが、2023年1月現在の感染者数や死者数は当時よりも圧倒的に多いものの、ロックダウンを求める声はほとんどないようである。それは、ウイルスの致死率や感染力の変化などに合わせて対策を変える必要があることについて専門家と国民との間でおおむねコンセンサスができているからであろう。

そうしたなかで、中国のみがオミクロン株に対してもウイルスの完全封じ込めを目指す対策を採り続けたため、2022年後半には世界のなかで浮いてしまった。2022年9月以降、私はベトナム、台湾、チリに出張したが、日本や台湾はまだ警戒が強い方で、その他の国ではもうすっかり元通りの日常を取り戻していた。ベトナムは「コロナと生きるLiving with Corona」政策を採るんだといって、感染拡大に対して完全に開き直っていたように見えたし、チリでも街を歩く人のうちマスクをしていたのは1割以下だった。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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