コラム

新規上場スナップチャット、自称「カメラ会社」で何を狙うのか

2017年03月06日(月)15時10分

同社の主な収入源である広告については、スマホ向けの縦型全面動画広告が特徴となっている。同社の動画広告は10秒以内でアプリの内容と融合性も高く、ユーザーの視聴率が高いことに定評がある。これは、同社の開発チームでは製品開発と広告開発を同時に行っていることが大きく貢献している。2016年のAdvertiser Perceptionsの広告主満足度調査では、2位のYouTube、3位のGoogleをおさえて1位にランクされている。

またスナップチャットは、米国でミレニアル世代と呼ばれる人口のボリュームゾーン層(2000年以降に成人したか社会に出た層)が多用しているサービスであることから、この層を取り込もうと、大手企業がスナップ社に広告投資を行っているほか、政府機関や官公庁なども積極的に投稿を行っている。

なぜ「カメラ会社」とポジショニングするのか

スナップ社の戦略を語る上で最も重要なことは、同社が自らを「カメラ会社」であるとポジショニングしていることである。同社のホームページでは以下の通り自社紹介を行っている。


Snap Inc.はカメラ会社です。
当社は、カメラを改革していくことにより、私たちの生活やコミュニケーションの方法を、更に素晴らしいものにできると確信しています。
Snapchatによって、自己表現の世界を広がり、毎日を楽しみながら、世界を体験し、その喜びを友だちと分かち合うことができます。
(原文ママ)

同社のCEOであるエヴァン・スピーゲル氏のこれまでの発言などをもとに筆者が分析した結果としては、「カメラ会社」であると自称している背景には、以下のような意義があると考えられる。

①「カメラ」の重要性

米国において「カメラ」は産業を牽引してきた歴史がある。1890年頃にはトーマス・エジソンがキネトグラフを発明し、その後同氏は初期の頃の映画産業を支配した。1957年にはNBC局がカラーでのテレビ放送を開始し、テレビ業界を席捲した。後に経営破綻したもののコダック社はかつて世界で最もブランド価値の高い企業だった。

スナップ社では、「カメラ会社」を標榜する一方で、「カメラを再発明する」と宣言している。これは、「再発明する」ことで新しく定義する「カメラ」事業によって、ネット業界のみならず、広く世界の産業界をリードしていこうとする意欲の現われであると筆者は考えている。

②ビジュアルコミュニケーションの重要性とスマホ時代のプラットフォーム

日本でもインスタグラムが急速にマーケットシェアを拡大しているように、スマホ時代においては、ビジュアルコミュニケーション、特に写真や動画の重要性がさらに高まると予想されている。米国では、スマホの所有者が2011年の35%から2015年には64%にまで上昇しているとのPew Researchの調査結果もある。

スマホにおいては従来の通信機器よりもさらにビジュアルコミュニケーションが重要であるとされており、そのビジュアルを撮影する手段としてのカメラの重要性はさらに高まるとスナップ社では考えているのだ。

【参考記事】「スナップチャット、お前もか」の創業ウラ話

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story