コラム

「王室離脱」騒動の只中にメーガン妃の「ダメ父」がまた暴言──意外にも同情を集めている理由

2020年01月24日(金)17時20分

翌7月、今度は日曜大衆紙「メール・オン・サンデー」の長時間のインタビューに応じ、娘と音信不通状態になっていることを暴露した。「娘は私を完全に切ってしまいました。とても傷ついています」。さらに「メーガンや王室にはもう我慢がなりません」、「いなくなってほしいと思っているんですよね、でも黙ってはいませんよ」。そして「今のメーガン妃があるのは、私がいたからなのに」と続けた。

これだけでも普通では考えられないほどの異例の行為だが、極めつけは、メーガン妃が父親あてに書いた「お願いだから、もうメディアにあることないことをしゃべるのやめて」と懇願する手紙(2018年8月)を、トーマスさん自らが新聞社に持って行ったことだ。昨年2月、手紙の一部がメール・オン・サンデー紙に掲載された。同年秋、メーガン妃は「私的な手紙を違法に出版した」として同紙を提訴している。

90分にわたるインタビュー番組の反応は

チャンネル5の取材班は、トーマスさんのメキシコにある自宅を訪れた。海岸沿いに面し、波の行き来が見渡せる場所に立つ複数の家の一つだ。取材の大部分は2018年に行われた。

水色のシャツに小さなマイクを付けたトーマスさんは、自分が撮影した多くのメーガン妃の写真や動画を見せながら、質問に答えた。生まれた時からメーガン妃を心から愛し、11歳から18歳まで一緒に暮らしたというトーマスさん。「これほど仲が良かった父と娘がなぜ不和になったのか」、「なぜ娘を傷つけるのか」。そんな疑問が視聴者の心に渦巻いたに違いない。

すべてが変わったのはヘンリー王子とメーガン妃との交際が始まってからだ。

交際開始から間もなくして、イギリスの大衆紙の取材攻勢にあい、おろおろしたトーマスさん。「メディアに話しかけるな」というヘンリー王子夫妻のアドバイスは正しかったが、日々の行動のアドバイスや娘が王室に入るとはどういうことか、家族はどうふるまえばいいのかを教えてくれる人はいなかった。

結婚を決めた二人がトーマスさんに電話をかけてきた。ヘンリー王子は電話口でメーガン妃との結婚の許しを求めてきた。「娘に絶対に手をあげないで」とトーマスさんは王子に頼んだという。

しかし、外国の、それも王室という特殊な世界に最愛の娘を嫁がせようというとき、なぜヘンリー王子はジェット機で飛んで父に会いに来なかったのだろう?あるいは、王室の関係者をメキシコに送り、テレビ電話を設定したりできなかったのだろうか?

「なぜ、一人ぼっちにさせておいたのかな」。トーマスさんがぽつんと言った。結婚式のときに、メーガン妃の母親が教会内で一人で立っていた様子が画面に映し出された時のことだ。トーマスさんが出席していれば、隣に立ったのかもしれないが、それにしても、「王室側に配慮が足りなかったのではないか」ということをトーマスさんは言いたいのである。トーマスさんはメーガン妃の母親とすでに離婚しているが、「元夫」だからこそ、気づいたのかもしれない。

プロフィール

小林恭子

在英ジャーナリスト。英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。『英国公文書の世界史──一次資料の宝石箱』、『フィナンシャル・タイムズの実力』、『英国メディア史』。共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数
Twitter: @ginkokobayashi、Facebook https://www.facebook.com/ginko.kobayashi.5

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story