コラム

「野党共闘」の射程を戦略的パートナーシップ論から読み解く

2021年10月21日(木)06時00分

中国の「国共合作」と比較するが......

この共産党による「限定された閣外からの協力」方針に対して、自民党は激しく反発している。自民党広報本部は「立民・共産の閣外協力は、共産党との連合政権への第一歩」と題する文書を配布し、その中で「かつて中国では、国民党と共産党の「国共合作」の後に国民党を排除し、共産党政権を樹立しています」と言及。甘利幹事長も「日本に初めて『(自公の)自由民主主義政権』か『共産主義(が参加する)政権』かの選択選挙になります」とツイートし、「共産主義政権」樹立の可能性を示唆することで、有権者の危機感あるいは忌避感を喚起する広報戦術がとられている。

連合の芳野友子会長が「不快感」を表明したことに象徴されるように、労組を中心とする立民支持層には共産党との連携を「禁じ手」とみなす支持者もいるため、「立共連合」批判は立民支持層に少なからぬ動揺を与える効果があると考える向きもあるだろう。これに対して、米ソ旧冷戦時代ならいざ知らず、米中対立の下で「民主主義」対「専制主義」の構図が焦点となっている現代で「共産主義」に対するイデオロギー的忌避感を煽ることはいささか時代錯誤感が否めないと見る向きもあろう。

その評価は人によって様々であろうが、少なくとも今回の「立共連合」を戦略的パートナーシップ論の観点から見た場合、野党共闘の「野合性」を批判してもそれほど有効な批判にならないことにまずは留意が必要だ。戦略的パートナーシップとは、現在ドイツで行われている社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党による連立政権樹立の調整などでも見られるように、様々な利害関係がある中で中長期的な重要性を持つ利益実現のために「小異を捨てて大同につく」提携関係を構築することだ。したがって一定程度の「野合性」は織り込み済みの話となり、特に今回の野党共闘のように「部分的な政策合意」を交わす提携関係に対する実効的な批判としては弱い(ちなみに有効な批判としては、20個の政策合意事項を各論的に批判することに加えて、包括的に左派ポピュリズムの隘路を突くことが考えられる)。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる

ビジネス

訂正-米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story