コラム

窮地に立たされる英アストラゼネカ・ワクチンの秘策 日本国内でも9千万回分生産

2021年02月08日(月)19時28分

今月3日には、南アを加えた被験者1万7177人(うち発症者332人)を対象にした査読前論文の分析結果を発表した。それによると、最初の接種後、22~90日目の有効性は76%。12週間以上置いた2回目の接種で有効性は82%に増えた。また、1回の接種で感染は67%減少するとともに、1回目の接種から22日以上経てば重症化や入院を100%防げることが改めて確認された。

m(メッセンジャー)RNAテクノロジーを使った米ファイザー・独ビオンテック、米モデルナのワクチンに比べるとオックスフォードワクチンの有効性は低いものの、これまでのインフルエンザワクチンに比べると有効性は格段に高い。しかも冷凍庫のコールドチェーンが必要なmRNAワクチンと違って普通の冷蔵庫で保管でき、1回分の価格もコーヒー1杯とさほど変わらないほど安い。

各種ワクチン.jpg

コロナ危機の今だからこそ割高なmRNAワクチンが重宝されているが、コロナの流行がインフルエンザのように毎年の恒例行事になれば、値段が手頃で診療所や薬局でも扱えるアストラゼネカ・ワクチンの需要が増すのは必至。なのに、欧米諸国の評価が非常に厳しいのは、致死率が高い肝心の高齢者のデータが限られているからだ。

オ大教授「いずれ高齢者への有効性は証明される」

アストラゼネカ関係者の1人は「ロックダウン(都市封鎖)の状況下で被験者を募ったので、どうしても高齢者が少なくなってしまった」と打ち明ける。実際、被験者に占める56~69歳の割合は約8%、70歳以上は3~4%。これが「65歳以上にはほとんど効果がない」と主張するマクロン大統領の根拠なのだが、「被験者数が少ないこと・イコール・効果がない」ことではない。

オックスフォードワクチンは第2相試験で56~69歳と70歳以上のグループと18~55歳とで同じような中和抗体価とT細胞応答を示した。ギルバート教授はBBCで「高齢者は政府のガイドラインに従って厳格な社会的距離をとっているため、発症者が一定の水準に達しないという側面がある。しかしアメリカでの治験でデータがそろえば、高齢者への有効性も証明されるだろう」と話した。

オックスフォードワクチンの臨床試験への信頼性が揺らいでいるのは、接種用量と接種間隔に一貫性を欠いているからだ。大学内の製造施設が追いつかず、イタリアの製造業者に外注したもののワクチン濃度の測定方法が異なっていたため、イタリアで生産したワクチンの濃度は2倍あるように見えた。実際はその用量で良かったにもかかわらず半分にしてしまった。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

海運マースク、第1四半期利益が予想上回る 通期予想

ビジネス

アングル:中国EC大手シーイン、有名ブランド誘致で

ビジネス

英スタンチャート、第1四半期は5.5%増益 金利上

ワールド

トルコ製造業PMI、4月は50割れ 新規受注と生産
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story