コラム

英ワクチン集団接種をいち早く可能にした周到な準備、日本は間に合うのか

2020年12月18日(金)10時41分

車でワクチン接種を受けるドライブスルーセンターもある(英ハイド、12月17日) Phil Noble-REUTERS

[ロンドン発]世界に先駆け新型コロナウイルス感染症(Covid-19)に対する集団予防接種が8日から始まったイギリスのワクチンセンターを訪れた。15日時点で80歳以上の高齢者、介護施設の職員、国民医療サービス(NHS)の医療従事者計13万7千人が2回のうち1回目の接種を終えた。

英政府は米ファイザーと独ビオンテックが開発したワクチン4千万回分を確保。3週間おいて2回打つ予防接種は英全土70カ所のNHS病院や臨時センターで行われている。8日早朝、世界で最初に接種を受けた北アイルランド出身の女性マーガレット・キーナンさんは91歳の誕生日を間近に控え、笑顔でこう話した。

「予防接種を受けた最初の人になれてとても光栄です。最高の早めの誕生日プレゼント。この1年ほとんど独りだった。新年はようやく家族や友人と過ごすことができる。90歳の私でも接種できた。あなたも接種できるはず」。感染者194万人、死者6万6千人を超えたイギリスにワクチン接種のためらいはない。

ground.jpg
サッカースタジアムに設けられた臨時のワクチンセンター(筆者撮影)

20センチ四方の箱に975回分のワクチン

17日昼、筆者が訪ねたのはロンドン北部のザ・ハイヴ・スタジアム(バーネットFCの本拠地)に設けられたワクチンセンター。アポなしだったので、まさかセンターの中まで見学できるとは思ってもみなかったのだが、地元のクリニカル・ディレクター、ミーナ・ターカー医師が快く取材に応じてくれた。

twomen.jpg
ボランティアに車イスを押されてワクチンセンターに入る高齢者(筆者撮影)

センターの開設から運営までを取り仕切るターカー医師はこう語る。

「今月2日にファイザーワクチンの緊急使用が英医薬品・医療製品規制庁(MHRA)に承認されたのを知りました。このワクチンは非常に不安定で、拠点病院の冷凍庫でしか保存できません。そこで地元でも接種できるようにと、わずか10日間でサッカースタジアムのバーにセンターを開設しました」

awoman.jpg
筆者の取材に応じるクリニカル・ディレクターのミーナ・ターカー医師(筆者撮影)

「ここには10カ所の接種ステーションがありますが、全く新しいタイプのワクチンなので接種のための研修やトレーニングを短期間で行いました。ここには大きな冷凍庫はありません。NHSから20センチメートル四方の小さな箱が送られてきます。その中に975回分のワクチンが入っています」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ADP民間雇用、4月は19.2万人増 予想上回る

ビジネス

EXCLUSIVE-米シティ、融資で多額損失発生も

ビジネス

イエレン米財務長官、FRB独立の重要性など主張へ 

ビジネス

米3月求人件数848.8万件、約3年ぶり低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story