コラム

日本の学校給食システムで世界の子供たちを「食料砂漠」から救え

2019年10月16日(水)14時25分

貧しい食生活は幼児期の栄養不足を悪化させるのに、生後6~23カ月の子供の44%は果物や野菜を与えられず、59%は卵、乳製品、魚、肉を口にすることはできない。その一方で太り過ぎや肥満の子供が増えるのはファーストフードや加工食品、糖質量が多い清涼飲料水が原因だ。

学校に通う青少年の42%が少なくとも1日1回は炭酸清涼飲料水を飲み、46%が1週間に1回以上ファーストフードを食べる。世界中の加工食品の売り上げの77%が大企業100社の手中に握られている。

都市部の貧しい子供たちは健康的な食事の選択肢がない「食料砂漠」か、高カロリーで低栄養のジャンクフードの「食料の泥沼」での暮らしを余儀なくされている。貧しい世帯はより安価な低品質の食品を選ぶ傾向がある。

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「何百万人もの子供たちが必要でないものを食べすぎている」と訴えるユニセフのフォア事務局長(筆者撮影)

一見矛盾しているようだが、肥満と栄養不足は硬貨の裏表だ。「何百万人もの子供たちが必要なものを十分摂取できず、何百万人もの子供たちが必要でないものを食べすぎている」とユニセフのヘンリエッタ・フォア事務局長は語る。

砂糖税で子供や青少年による清涼飲料水の消費を減らし、低所得者のコミュニティーでも健康で手頃な価格の食品を入手できるよう経済的なインセンティブをつける必要がある。報告書は「発育阻害を減らすため1ドル投資するだけで約18ドルに相当する経済的利益を生み出す」と言う。

来年は日本で栄養サミット

日本の乳児死亡率は世界最低で、5~19歳の太り過ぎの割合も先進国の中で最も低い14.4%。日本の学校給食プログラムは栄養価が高く、健康的だと専門家の間で評価されている。来年、成長のための栄養サミット2020が日本で開催される。

英ロンドン大学シティ校のコリーナ・ホークス教授(食料政策)は「まだ企業が低所得者層の地域に栄養価の高い食品を供給するよう促すインセンティブを与える仕組みがない」と指摘する。

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ホークス教授(筆者撮影)

「砂糖税は清涼飲料水メーカーにもうたくさんだというメッセージを送った。日本政府はサミット開催で栄養問題にスポットライトを当て続けることができる。企業も政府も市民社会もこの問題と密接に関係する気候変動と同様にがっちりスクラムを組む必要がある」

日本の学校給食システムが世界中の貧しい子供たちを「食料砂漠」や「食料の泥沼」から救い出すことを大いに期待したい。

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※10月22日号(10月16日発売)は、「AI vs. 癌」特集。ゲノム解析+人工知能が「人類の天敵」である癌を克服する日は近い。プレシジョン・メディシン(精密医療)の導入は今、どこまで進んでいるか。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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