コラム

韓国政府、所得税の最高税率を45%に引き上げ

2020年08月28日(金)12時15分

所得税の最高税率引き上げは文政権下で2度目(写真は7月16日、第21回国会の開会式にて) Jung Yeon-je/Pool via REUTERS

<コロナ不況で開いた財政の穴を埋めるための増税の一環だが、韓国の富裕層は今も日本などより過大な負担を負い、相対的に労働者層が優遇されている>

韓国で富裕層の税負担が高くなることになった。企画財政部は7月22日に「税制発展審議委員会」を開催し、2021年から所得税の最高税率を現在の42%から45%に引き上げることを決めた。所得税の最高税率の引き上げは文在寅政権になってから2回目のことである。1回目は文在寅大統領が当選した直後の2017年7月に行われ、所得税の最高税率は既存の40%から42%に引き上げられた。

韓国の現行の所得税体系は、課税所得が1,200万ウォン以下の場合は6%を適用し、所得が多くなるに従って所得税の税率も段階的に上げ、5億ウォンを超過した所得に対しては42%の税率を賦課している。今回の改正案では課税所得「10億ウォン超過」区分を新設し、最高税率を現在より3ポイント高い45%に引き上げた。所得税の最高税率45%は1970年代の70%に比べると低いものの、金泳三政権時代の1995年(45%)以降、最も高い水準である。

Kim200828_1.jpg

韓国政府は、課税所得が10億ウォンを超過する人が現在約1万6000人いると把握しており、今回の最高税率の引き上げにより1年間で約9000億ウォンの税収が増えると期待している。

新型コロナウイルスにより広がった格差縮小が目標

韓国政府は、「新型コロナウイルスの感染拡大により低所得層の勤労所得が減少する等格差が広がっているため、税金を負担する余力がある高所得層に対する税負担を強化した」と所得税の最高税率を引き挙げた理由を説明した。

しかしながら、「今回の改正案は富裕層に対する増税だ。高所得層の消費が減り、経済にマイナス効果が起こる」と増税に反対する声も上がっている。また、高所得層の負担だけが増加する増税よりは、より多くの人が税金を納める増税を実施することが望ましいと主張する意見もある。保守系の新聞、朝鮮日報のインターネット媒体であるChosunBizは、韓国における上位10%が全所得に占める割合は36.8%であることに比べて、所得税総額に占める割合は78.5%であり、アメリカの70.6%、イギリスの59.8%、カナダの52.8%より高いと韓国の課税システムの問題点を指摘した(2020年7月22日付)。

このように高所得層に税負担が偏っている理由としては、勤労所得税の免税者比率が高いことが挙げられる。韓国における勤労所得税の免税者比率は、2018年時点で38.9%に至った。これはイギリスの0.9%(2014年)、日本の15.5%(2015年)、オーストラリアの16.6%(2014年)カナダの18.7%(2014年)を大きく上回る数値である(韓国租税研究院、2017年発表資料)。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる

ビジネス

訂正-米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story