コラム

韓国は新型肺炎を機に中国依存を脱却すべきだ

2020年02月07日(金)09時50分

影響を受けるのは製造業だけではない。1月末に一部の中国路線の運休と減便を決めている大韓航空は、今年3月の中国路線の運航を67%減らすと発表した。また、アジアナ航空も中国に就航している26路線のうち、6路線の運航を完全に中断することを決めた。中国政府が海外への団体旅行を禁止していることや、新型肺炎の影響を受け、中国への観光客などが急減し、回復までには時間がかかると予想したからである。

対中と対米に大きな差

韓国の民間シンクタンクである「現代経済研究院」は、1月末に過去SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)が発生した時の事例に基づいて、新型肺炎が韓国経済に与える影響に関する推計結果を発表した。報告書では、新型肺炎の感染が中国国内に限定される場合、2020年1~4月の韓国への外国人観光客数は61.6万人、観光収入は0.9兆ウォン減少すると予想した。

しかし実際には感染は韓国国内まで拡大した。報告書はこの場合、同期間の外国人観光客数は最大202.1万人、観光収入は2.9兆ウォンまで減少し、韓国経済により大きな打撃を与えると予想した。また、消費支出は最大0.4%ポイント減少し、2020年第1四半期の経済成長率は対前年同期比0.6~0.7%ポイント(年間では対前年比最大0.2%ポイント)低下すると推計した。

2019年、韓国の製造業の平均稼働率は72.9%(暫定)で、2018年の73.5%に比べて0.6%ポイント低下した。これはアジア経済危機直後の1998年の67.6%以降最も低い数値である。他の要因もあるものの、米中貿易戦争の長期化の影響が大きい。前述した通り韓国経済の中国依存度はまだ高い。2019年基準で輸出額の25.1%、輸入額の21.3%を中国が占めており、2位のアメリカ(輸出13.5%、輸入12.3%)と大きな差が出ている。

図表1 製造業の平均稼働率の推移
chart1.jpg
出所)統計庁「鉱業・製造業動向調査」

図表2 韓国における10大輸出国のシェア
chart2.jpg
出所)産業通商資源部・関税庁・韓国貿易協会「韓国の10大貿易国」

図表3 韓国における10大輸入国のシェア
chart3.jpg
出所)産業通商資源部・関税庁・韓国貿易協会「韓国の10大貿易国」

今後の課題

サプライチェーンが一国に偏りすぎると、何か問題が発生した際のリスクが大きい。米中貿易戦争の長期化や中国を中心に感染が拡大している新型肺炎が良い例である。従って、今後韓国政府はリスクを分散し、生産活動への負の影響を最小化するために、中国に偏っているサプライチェーンをより多くの国へ分散する必要がある。また、中国に進出している企業が韓国に戻り、企業活動が再開できるようにビジネスフレンドリー政策を推進すべきである。新型肺炎が、韓国政府の経済政策を転換させる良い機会になることを願うところである。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story