コラム

安倍晋三の名を歴史に残すために必要なのは「遺産」ではない

2019年01月04日(金)07時00分

参院選は内政上の大きな節目となる。今回の改選議席は前々回選挙での自民党大勝の後を受けており、しかも消費税引き上げを目前に控える。与党が議席を減らすことは避けられない。何も決められない「ねじれ国会」の再現や、1998年の参院選で惨敗した橋本龍太郎政権のような退陣劇にはなるまいが、与党が大敗すれば「安倍後」への動きはにわかに活発化するだろう。

もし参院選を何とか乗り切ることができると、次は安倍政権の「レガシー(遺産)」づくりとなる。憲法改正は実際上難しい。連立与党の公明党が嫌がるし、たとえ国会を通したところで、国民投票で過半数の賛成を得ることは至難の業だ。ロシアとの平和条約締結にしても、今の国際情勢で無理押しすればウラジーミル・プーチン大統領の言う「領土抜きの平和条約」となってしまう可能性が大きい。これではレガシーどころか汚点になってしまう。

そもそもレガシーづくりで焦る必要はあるのだろうか。首相の平均在任期間が2年少々しかない日本で、2019年11月には日本史上最長の長期政権を実現することとなる。その間、人口減で縮小必至といわれた経済をデフレスパイラルから救い出し、安定政権を背景に果敢・活発な外交を7年も見せてくれたことこそ、最大のレガシーだ。

それでも生きた証しが欲しいなら小手先の美辞麗句でなく、70年代の大平正芳首相のように哲学的・歴史的な大きな視点に基づいた方向を示し、実行に移したらいい。1つはアメリカの内向き傾向はもう後戻りしないことを見据えて、自主防衛力の内容と整備実現の時期を定める。それは核抑止力保有の是非や方法も含めてのことだ。内向きになるアメリカも含め、「東アジア版国連」のような組織を提唱してもいい。

そうやって周辺の国際政治の枠組みを固めた上で、日本の政治・経済・社会のカビ取りをして、活力を取り戻してほしい。三権分立と言いながら、政府提出の予算案を修正することもできない国会など、明治以来の民主主義の格好をつけるだけの「何ちゃって体制」だ。欧米に同等に扱ってもらいたいために民主主義体制を表面だけ装うのはやめて、実質本位にしてもらいたい。野武士的な人材が減って、優等生的なエリートが今の体制内で自分の担当範囲内の仕事をこなしていくだけでは、日本は窒息する。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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