コラム

安倍外交を空転させる、官僚仕込みの能天気「シナリオ」

2018年06月09日(土)13時00分

例えば、首相や外相の会談前に作成される「発言要領」を見直してはどうか。これは2国間あるいは国際的な懸案や調整事案について、外務省が省内部局、そして関係省庁から集めた文章を束ねて作ったシナリオだ。

この、首脳会談で用いるにはあまりに官僚的な発言要領を、人間の血が通ったものに徹底的に直す。会談で達成すべき目標、相手の性格、相手国の政治・経済状況、世論の状況などをよく消化し、相手の琴線に触れ、心を動かす表現に変えるのだ。

官僚特有の「法的に正しい」だけの優等生的アプローチでは、世界に関心を持ってもらえない。「筋を通す」のは必要だが、適度に「スジ」を抜いて相手が食べやすいようにしてやるのが外交だ。日米貿易問題なら、「自由貿易」などの原則論で正面から議論してもらちが明かない。

「戦闘機や巡航ミサイルを1000億ドル購入」「500人を雇う工場が(トランプに投票した)州にできる」といった、トランプや米国民の胸にストンと落ちる発言を用意。そのことをツイッターでも発信し続ければ、トランプが秋の中間選挙で自分の功績としても使えるだろう。

従来の優等生的体質はひとまずおいて、もっとがさつで強心臓の取引や揺さぶりが荒波時代の外交に求められている。

<本誌2018年6月12日号掲載>


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プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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