コラム

おごるアメリカ久しからず、頼りになるのは軍事だけ

2018年03月10日(土)13時30分

鉄とアルミへの高関税を訴えるトランプ(3月1日) Kevin Lamarque-REUTERS

<日本を守るどころか安全や生活を脅かす在日米軍。「自分だけが正しい」大国アメリカの沈没をどう受け止めるか>

20年前、ハーバード大学ケネディ政治学大学院で、学生たちを前に講演したことがある。「自由で公正で豊かなアメリカは世界で頼りにされている。だが強みが軍事力だけになれば、世界で孤立する。このままだと30年後にそうなりかねない」

悲しいことに、アメリカはじりじりと軍事力だけの国になりつつある。今のアメリカに魅力はない。ハリウッド映画や音楽が勢いを失っているのが象徴的。建国以来誇りとしてきた自由と民主主義はもう手詰まり。あまりに多くの欲望と思い込みが節度なしに渦巻いて、共和・民主両党が「自分だけが正しい」と死闘を続ける。その揚げ句、数年にわたって政府予算案が9月末までの前年度内に成立していない。

理性的な話し合いが難しいので、政治家は極端な言動で世論をあおって票を稼ぐポピュリズムに頼る。そのための遊説やテレビ広告にカネがかかるので、政治はカネにすっかり席巻されている。企業から献金を受けた議員たちは、財政赤字などどこ吹く風とばかり、法人税を大減税。学校などで発砲事件が相次いでいるのにもかかわらず、銃砲製造業界はロビー活動全開で規制強化に抵抗する始末だ。

アメリカはアジアでも次第に浮いてきた。着々と強化される南シナ海の中国製人工島をアメリカはもう止められない。中国の対米貿易黒字に対して厳しい制裁をすると言っていたトランプ政権も大したことはできないことを露呈しつつある。

台湾は中国から大きな圧力を受けているが、アメリカは中国との取引に台湾を使うだけで、台湾が切望する最新鋭兵器は売り渡さない。韓国は北朝鮮と手を握れば脅威を軽減できると思い、米軍を迷惑視しだすだろう。東南アジア諸国はいずれも、米中を両てんびんに掛けている。

そこら中で、アメリカは中国やロシアと同格、つまり自分のことしか考えない国と思われ始めている。アメリカが中ロや北朝鮮を敵視していても、あえてそれにくみする理由もなくなっている。

その中で最も対米同盟を大事にしている日本をアメリカは軽くみる。在日米軍は頻繁に事故を起こすが、事後対応が日本人の心情に対する配慮を全く欠いている。「日本を守ってやっているのだから、演習をやめるわけにいかない」と言いたいのだろうが、日本を守るはずが日本人の安全や生活を脅かしている矛盾をどう説明するのだろうか。

アメリカは最近、与えるよりも取り上げる分が大きくなってきている。トランプ政権のように、「対米輸出したいなら、こうしろ」と要求ばかり突き付けてくるようでは、各国にとってうまみがない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EUと米、ジョージアのスパイ法案非難 現地では抗議

ビジネス

EXCLUSIVE-グレンコア、英アングロへの買収

ワールド

中国軍機14機が中間線越え、中国軍は「実践上陸訓練

ビジネス

EXCLUSIVE-スイスUBS、資産運用業務見直
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story