コラム

韓国のG7参加を嫌う日本と冷静な韓国との差異

2020年06月05日(金)08時05分

そしてこの話には重要な続きがある。日本に外交権を譲り渡しその保護国へと転落した韓国の皇帝は、2年後の1907年、オランダのハーグで行われた「万国平和会議」に、自らの密使を送り、韓国の外交権回復を主張しようと試みた。しかしながら、主催国であったロシアをはじめとする当時の「列強」は、韓国の要求を拒否し、密使の会議への参加を認めなかった。つまり、文字通り、当時の「列強」は韓国に対して「会議の門」を閉ざす事で、その要求に応えることになったのである。

韓流スター「G20の歌」を歌う

だからこそ韓国にとって、かつて自らを排除した「列強」或いは「主要国」の一員に、自身が名を連ねる事は悲願であり、特別な意味を有していた。2008年に第1回の首脳会合が開かれたG20の一員として名を連ねたことは、その大きな第一歩であり、当時の韓国世論はこれを大きな歓迎の意を持って迎えることとなった。2010年のG20会合では、韓国が自ら議長国を務める事となり、リーマンショックから劇的な回復を果たした直後の李明博政権は「100年前我が国を見捨てた列強が、今度は我が国に学びに来る」として、開催の意義を大々的に宣伝した。韓国では、この会議を歓迎する意味で「G20のテーマソング」が作曲され、韓流スターたちがこれを歌うミュージックビデオが各所で流されるなど、オリンピック開催時かと見間違うかのような、お祭り騒ぎが展開された。

そして今、新型コロナ禍が世界を覆う中、2020年のG7首脳会議主催国であるアメリカのトランプ大統領が、ロシア、インド、オーストラリアと並んで、韓国をこの会合に招請することを提案するに至っている。世界第12位の韓国より大きなGDPを持つ、第9位のブラジルをも飛び越えた提案であり、これまでの韓国であれば諸手を挙げて歓迎した筈である。実際、2008年に開催されたG8洞爺湖サミットの拡大会議に招待された李明博は、「拡大会合に出席できることは大変な名誉」だとして主催国の日本に大きな感謝の意を示すことになっている。

しかし、2020年、トランプ大統領の提案を受けた韓国では、複雑な空気が流れている。直接的な理由はトランプ大統領が、この4カ国追加招請を「中国問題を議論する為」とした事への憂慮である。韓国にとり貿易の1/4を占める中国は、欠くべからざる重要性を有する経済上のパートナーであり、ただでさえコロナ禍で世界経済が大幅に冷え込む中、喜び勇んでG7+4に参加した結果、中国との関係を損ない、経済を危機に晒すわけにはいかない、という事になる。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英軍個人情報に不正アクセス、スナク氏「悪意ある人物

ワールド

プーチン大統領、通算5期目始動 西側との核協議に前

ワールド

ロシア裁判所、JPモルガンとコメルツ銀の資産差し押

ビジネス

UBS、クレディS買収以来初の四半期黒字 自社株買
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 3

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    「ハイヒールが効率的な歩行に役立つ」という最新研究

  • 8

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 9

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 10

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story