コラム

そろそろ長期政権改め政権交代の時だが、労働党党首はあまりに退屈

2022年10月06日(木)18時15分
キア・スターマー

そろそろ首相就任が視野に入ってもおかしくないのにイマイチ存在感に欠ける野党・労働党のキア・スターマー党首(9月24日、リバプール) Henry Nicholls-REUTERS

<英トラス政権の支持急落のおかげで急浮上の野党・労働党。保守党の長期政権にイギリス国民はうんざりし始めているものの、野党党首のキア・スターマーはあまりに生真面目で地味>

大学で歴史を学んでいた時に僕が読まなければならなかった記事の1つが、「労働党党首としてのアーサー・ヘンダーソン」だった。それを覚えているのは、絶望的に面白くなさそうなタイトルだったから。「1924~1940年のジョージア(グルジア)におけるリネン生産」とか「アイルランド独立後の郵便制度改革」などと同じような感じだ。

ヘンダーソンは決して首相にはなれず、魅力的な人物でもなかった。僕が思うにこの記事の筆者は、ヘンダーソンがイギリスの主要政党で長年重要な地位にいた大ベテランなのにあまりに世間から無視されているから、彼について研究してやらねばという義務感めいたものに駆られたのではないだろうか。

確か筆者は、ヘンダーソンの政治信条がいかに労働党の進化を反映しているかを明らかにし、1900年代と1910年代、1930年代に3度にわたって党首として労働党を率いた安定したリーダーだったとの主張を展開した。3度目の党首時代は、労働党は危機に瀕していた。党は2つに分裂し、ヘンダーソンは政権奪取の機会を待つために労働党に残った人々を団結させ、足場を固めていた。

僕が今それを思い出すのは、同じように魅力なしのタイトルをいま付けるとしたら「労働党党首としてのキア・スターマー」になるだろうから。(現労働党党首の)スターマーは、あまり刺激的な人物ではない。彼について僕が多少面白いなと思ったのは、彼が『ブリジット・ジョーンズの日記』に出てくるマーク・ダーシーのモデルだという噂が上がったときだ(スターマーはマーク・ダーシーさながらの人権派弁護士で「生真面目」なタイプで、穏やかなイケメン)。けれどどうやら、この噂は真実ではなさそうだ。

今現在、スターマー率いる労働党の支持率は与党・保守党に33ポイントの差を付けてリードしている。そろそろ人々が彼を次期首相という目で見始めてもいい頃だ。だが、もしもイギリス人に「スターマーの政策で好ましいものは何?」と聞いたなら、おそらくほとんどの人が好ましい、あるいは好ましくない彼の政策の1つも思いつかないのではないかと思う。スターマーが有権者の支持を得ているというよりも、保守党が支持を失っているのが現状だ。

堅実な仕事をしてじっとチャンスをうかがう

スターマーは直近の総選挙で歴史的敗北を喫した労働党を引き継いだ。伝統的労働者階級の有権者たちの支持をあまりに失ったため、労働党は存亡の危機に瀕していた。労働党はジェレミー・コービン率いる急進左派にある意味乗っ取られてきていたように見えなくもない。イデオロギー的には「純粋」だったが、選挙で支持を得られるたぐいのものではなかった。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 5

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story