コラム

コロナ支援策の恩恵を受けられなかった「敗者」とは......

2021年04月06日(火)15時30分

英スナク財務相は手厚い支援策を発表したが…… Tolga Akmen/Pool/REUTERS

<ロックダウンに伴う支援策でぼろ儲けする人もいれば、運悪く条件がそろわず完全にこぼれ落ちた人もいる。罪もないのに罰を食らったのはどんな層だったのか>

ニューズウィーク日本版本誌用に書いた記事で、イギリスでの新型コロナウイルスとロックダウン(都市封鎖)によって経済的「勝者」になった人々についてまとめてみた。その記事の中では、「敗者」についてはあまり触れなかった。

フリーランス・自営業者の中では、僕はたまたま「勝者」のカテゴリーに入り、同じく自営業者の中に「敗者」カテゴリー入りした人々がいることを心苦しく思う。実に不公平なことだから、僕はきまり悪さを覚える。

1年前に初めてロックダウンが宣言されたとき、英政府は人々が経済的な苦境に陥らずに自宅待機の規制に従えるよう、計画を練った。規制は必要に迫られて急ごしらえで出来上がったから、必然的に大ざっぱなところがあった。信じられないほどの幸運が舞い込んだ人もいれば、こぼれ落ちた人もいた。

自営業者が英政府から提示されたのは、もしもロックダウンで何らかの経済的悪影響を受けた場合、平常時の収入の80%を保障してもらえる、という支援策だ。これは3カ月を1まとまりとして試算される。その結果、かなり多くのフリーランスの人々にとって、この助成は非常に太っ腹なものになった。

心無い人々が乱用

例その1、ロックダウンが始まり最初の2~3週間は仕事が激減したが、この状況に適応して仕事をする方法を見つけ、その後は通常時の収入に戻ったという人。例その2、これは僕もそうだが、3カ月間を通してみれば収入の一部、20%かそこらの損失があったという人。例その3、かなりの収入を失ったがコストも大幅に削減されたから純損失はそれほど大きくなかったという人。

この支援策は延長に次ぐ延長が行われた。僕は第1回目以降は、今後これ以上の収入減はないだろうと判断して支援金を申請しなかった。でもこの制度は心無い人々が乱用するには好都合だった。申請が殺到したため、申請の信憑性など確認できなくなった。

「敗者」になったのは、非常に高収入だった自営業者。支援額の上限が決まっていたからだ。彼らは高収入かもしれないが運営コストも膨大で、例えば高額機器のローン返済や広大な仕事場の家賃支払いなどがのしかかるために、ロックダウン中でもコストは減らなかったという可能性もある。それでも支援はあくまで収入に基づいて算出されたし、1カ月に2500ポンド(約38万円)が上限とされた。平常時なら大きな税収をもたらしてくれるはずの、こうした高利益な事業者は、ロックダウンでじわじわと絞め付けられていった。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

仏クレディ・アグリコル、第1半期は55%増益 投資

ビジネス

ECB利下げ、年内3回の公算大 堅調な成長で=ギリ

ワールド

米・サウジ、安全保障協定で近く合意か イスラエル関

ワールド

フィリピン船や乗組員に被害及ぼす行動は「無責任」、
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story