コラム

ブレグジットで激変する海上輸送、ウェールズ港没落はイギリス解体の予兆なのか?

2021年04月02日(金)13時30分

喜びにあふれるアイルランド側

ただ、たとえ英国政府側が素早く行おうとしても、相手があることである。EU加盟国側はどうか。

フランスは、カレの沈滞は問題だとしても、同地に集中していたのが分散しただけとも言える。その分、他の港が活況を呈していて、新たな雇用が生まれている。コロナ問題が一番の重要で急を要する課題であるなか、それほど急ぐ必要もない。

アイルランドに至っては、積極的に自国の港の活性化をはかろうとしている(当たり前だが)。

アイルランド政府は、ノートン運輸大臣いわく「英国という陸橋を利用している企業に対し、新しい規制を避けるために直行便に切り替えるよう促している」という。

今のところ、英国からフランスに到着する際に、新たな輸出事務に直面する。ところがまもなく(4月から、そして7月からはより広く)、アイルランドから英国に到着した際にも、同様の輸入規制に直面することになる。

ノートン運輸大臣は、輸送能力を向上させようとする「海運業界からの前例のない反応」があったと言う。

ウェールズ独立問題に影響は?

ウェールズでは、「独立に反対」の割合が、最も低い割合に達した。YouGovの調査をWalesOnlineが伝えた。

今までウェールズは、スコットランドと異なり、独立反対派が常に優勢だった。2014年には7割すら占めていた。

少しずつ下がり、2020年には独立反対派は、およそ6割弱を保っていた。今回最新の調査で、初めて半分の5割に達したのだ。独立反対派が、じりじりと減り続けているということだ。

24歳までの若者では、独立派が反対派を上回るが、25歳以上では、独立反対派のほうが多い。年取れば取るほど、独立反対派が強い。

プライドカムリ(ウェールズの独立を最終目的に掲げる党)や、労働党の支持者では、独立賛成派と反対派が拮抗している。逆に、保守党支持者では、圧倒的に独立反対派が強い。

ウェールズ政府は、港の危機について、英国政府とアイルランド政府が協力するための「触媒」としての役割を果たすことを約束しているという。

しかし同時に、「状況を改善するためにウェールズ政府が単独でできることはほとんどない」と、認めているという。

触媒としての役割......自治政府に、果たしてどこまで可能だろうか。

今後、「連合王国」の未来を占うには、スコットランドだけではなく、ウェールズの動きを注意深く見ていく必要があるだろう。

――それにしても、何ということだろう。

今まで英国は、誤解を恐れずに言えば、アイルランドを下にみる傾向があった。EU加盟国であるアイルランドと、EUを離脱した国、英国。EUという新しい存在が、英国とアイルランドの関係を逆転させる時が来ようとしているのだろうか。

歴史の新たなパラダイムが起ころうとしているのだろうか。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英労働党党首、パレスチナ国家承認の意向 和平プロセ

ワールド

中国工業部門利益、1─4月は4.3%増で横ばい 4

ビジネス

欧州統括役に重本氏、青森支店長に益田氏・新潟は平形

ビジネス

ECB、利下げ開始の用意ある─レーン専務理事=FT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    カミラ王妃が「メーガン妃の結婚」について語ったこ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 9

    胸も脚も、こんなに出して大丈夫? サウジアラビアの…

  • 10

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 3

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 6

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 7

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story