コラム

ブティジェッジ、あるいはブー・ダジャージュ、ブッダジャージュ、アブー・ダジャージ......に注目する理由

2020年02月07日(金)16時20分

しかも、米国の報道によると、8か国語しゃべれるという。あるYouTubeの動画で、彼はアラビア語、ダリー語、フランス語、スペイン語、ペルシア語、イタリア語、ノルウェー語をしゃべっている。

ただし、これだと7言語で、残りが英語だとしたら、彼はマルタ語をしゃべれないことになる。あるいはアラビア語となっているのが実はマルタ語なのであろうか(実際、彼がアラビア語で挨拶しているところがYouTubeにあったが、かならずしも正確なアラビア語ではない)。または、ダリー語とペルシア語を同じだとすると、残りがマルタ語ということになる。

アラビア語やペルシア語ができるとはいっても、彼はムスリムではない。米国聖公会の信者とされる(ちなみに米国聖公会は同性愛を認めている)。

ちなみに、アラビア語の姓をもつ大統領候補は彼がはじめてではない。たとえば、1972年以来、たびたび大統領選に挑戦してきたラルフ・ネーダーもそうだ。2000年の大統領選では、共和党のブッシュ、民主党のゴアにつぐ第3の候補として文字どおりキャスティング・ボートを握り、リベラル票の多くがネーダーに流れたため、ゴアがブッシュに敗れたといった説もある。

消費者運動の旗手としてデビューし、近年は環境活動家としても知られるラルフ・ネーダーはレバノン系移民の子で、ネーダーはアラビア語「ナーデル」を英語読みにしたものだ。彼もブティジェッジと同様、プリンストン大学とハーバード大学を卒業した知的エリートであり、アラブ系ではあるが、ムスリムではなく、キリスト教徒である。

移民2世であっても、能力さえあれば、大統領、あるいは有力な大統領候補になれる、というのはやはり米国の底力であろう。若く、同性愛を公言し、アラビア語の姓をもつ移民2世の候補にはぜひ今回の大統領選を引っ掻き回してもらいたい。

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プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授等を経て、現職。早稲田大学客員教授を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

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