コラム

コスプレは規制だらけ、サウジで初のコミコン開催

2017年02月27日(月)17時43分

男性は女性のコスプレ姿を見られない

もちろん、明らかに異なるものもある。実は、コスプレもそうだ。サウジアラビアでも男女問わず、コスプレ人気は高く、サウジ・コミコンでもコスプレ大会はメインイベントの1つであった。ただし、このコスプレ大会には、他国では見られない規制がある。大会ウェブページによれば、

(1)衣装はイスラームや公衆道徳に反する猥褻なシンボルやロゴをつけてはならない。
(2)控えめな服装をする。
(3)男性は、女性キャラクターの服装をしてはならない。
(4)ナイフや武器をもってきてはならない。
(5)コスプレの寸劇等で用いる音響効果・音楽は猥褻、あるいは非道徳的なものであってはならない。

といった規定がある。

これは男性用の規制で、女性向けにはもう1つ、男性用にない規制が加わっている。つまり、「いかなる状況であれ、女性は、アバーァを着用せずに、メークアップや衣装、その他コスプレに関係するアクセサリーをつけたまま、女性専用スペースを出ることは許されない」という規制である。

要するに、イベント会場そのものでは男女いっしょだが(これだけでもサウジ的基準ではけっこうすごい)、コスプレを行うところは事実上男女別ということだろう。女性がコスプレをするのは女性専用スペースだけであり、男性は女性のコスプレ姿を見ることはできない。だが、女性はアバーァを着用しているかぎり、男性のコスプレ姿は見ることができる、ということだ。

実際、YouTubeなどに投稿された動画やTwitter、Instagramなどの画像には、男女がいっしょに映っているものがけっこうあるが、女性のコスプレ写真で公開されているものは少ない。

とはいえ、多数のサウジ人女性がコミコンに参加していたのも事実であり、そのなかには単に見学者としてだけでなく、実際にマンガやアニメ、イラストなど自分の作品を展示・販売する女性たちの姿もたくさん見られた(姿は見えずとも、女性コスプレーヤーも)。これは、明らかにサウジアラビアにとっては大きな変化である。

男性と同じ場所に女性が進出し、それをさも当然のようにみんなが感じはじめているのだ。もちろん現時点では、それができる場はかぎられている。これがコミコンのような閉鎖空間から飛び出すときこそが、サウジアラビアにとっての真の変化ということであろう(ちなみに昨年ドバイで行われたコミコンはもう少し規制が緩い)。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授等を経て、現職。早稲田大学客員教授を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米大統領選、バイデン氏とトランプ氏の支持拮抗 第3

ビジネス

大手3銀の今期純利益3.3兆円、最高益更新へ 資金

ワールド

ニューカレドニアの暴動で3人死亡、仏議会の選挙制度

ワールド

今年のユーロ圏成長率、欧州委は2月の予想維持 物価
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story