ニュース速報

ワールド

アングル:新型肺炎、航空業界への打撃は SARSとの比較

2020年01月25日(土)11時18分

1月23日、中国武漢市で発生して感染が拡大している新型コロナウイルスによる肺炎を巡り、航空会社や搭乗客は警戒感を募らせている。写真は武漢の空港で、航空便のキャンセル情報を確認する男性(2020年 ロイター/cnsphoto)

[23日 ロイター] - 中国武漢市で発生して感染が拡大している新型コロナウイルスによる肺炎を巡り、航空会社や搭乗客は警戒感を募らせている。足元までの航空業界による対応状況や、2003年に800人近くが死亡した重症急性呼吸器症候群(SARS)と比較して業界が受ける可能性がある金銭的な被害をまとめた。

<予想される航空業界への金銭的被害>

最大の懸念は、新型コロナウイルスによる肺炎が世界的に流行した場合に予想される旅行需要の急激な落ち込みだ。SARSが最も深刻化した03年4月には、国際航空運送協会(IATA)によるとアジアで航空機利用需要が45%減少した。キャセイパシフィック航空が40%近くの便を欠航して赤字を計上したほか、シンガポール航空、日本航空(JAL)<9201.T>、全日本空輸(ANA)<9202.T>なども同様の事態に陥った。

そして航空業界は足元で、中国旅行客への依存が高まっている。

例えばオーストラリアでは、国際便での中国人搭乗客の比率は03年時点の4%から15%強に上がったことが、ムーディーズのデータで分かる。これらの搭乗客のほとんどは中国本土の航空会社を利用してオーストラリアに到着した後、オーストラリアの航空会社機に乗り換えて各地に向かうので、中国の旅行需要が減少すればカンタス航空などにたちまち影響する。

03年以降で年間の旅客便利用者数は2倍以上に増加しているが、なかでも中国から海外への渡航増大で、中国が海外旅行で世界最大の市場になっている。中国当局のデータに基づくと、03年に中国から国際便を使って旅行した人は680万人だったが、18年は6370万人と10倍近い。

IATAによると、世界の航空会社の総収入も03年の3220億ドルから19年には8380億ドルと、2倍を超える増加となった。

シンガポールの独立系航空アナリスト、ブレンダン・ソビー氏は「(新型肺炎の影響が)副次的な一つの市場だけに収まるのか、あるいはどこかの国全部、またはもっと広い地域に影響を及ぼすかどうか予想できないのは間違いないし、業界のコントロールの範囲外だ」と述べた。

<最も影響が見込まれる航空会社>

大韓航空<003490.KS>、シンガポール航空傘下の格安航空会社スクート、台湾の中華航空<2610.TW>、ANAなど多くの航空会社は、武漢市当局が武漢を出発する航空便や列車の停止を宣言した後、同市離陸便だけでなく、到着便の運航停止も発表した。また韓国の格安航空会社ティーウェイ航空<091810.KS>は、武漢市への新路線就航予定を延期した。

航空便の動きを追跡しているサイト「フライトレーダー24」を23日0600GMT現在確認すると、武漢から同日離陸予定だった便の60%に当たる184便が欠航した。

中国の民間航空路線のうち武漢天河空港に離発着するのは約2%で、国内便が主体。ジェフリーズは、同空港は全体の88.8%が国内便とみている。中国南方航空<600029.SS>のシェアが30%と最大だ。

<中国旅行のキャンセル状況>

韓国旅行代理店最大手ハナツアー<039130.KS>は、今週に入って中国旅行のキャンセルが前年同期比でおよそ20%増えたと明らかにした。この数字には延期や目的地変更も含まれるという。

トーマス・クックのインド法人幹部のラジーブ・ケール氏は、一部の顧客が中国旅行について懸念を高めていると明かし、「大半の顧客は今後の推移を静観する態勢を取っている」と述べた。

フィリピン航空、ガルーダ航空、JALは、まだ中国発と中国着の便の予約は鈍っていないと述べた。フィリピンの格安航空会社セブパシフィック航空は、一部の搭乗客が中国に向かうのは安全かどうか不安を示したとしながらも、予約はキャンセルされていないとしている。

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル157円台へ上昇、34年ぶり高値=外為市場

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中