ニュース速報

焦点:離脱懸念で英企業の調達コスト上昇、一部新興国並みに

2019年02月18日(月)11時27分

[ロンドン 14日 ロイター] - 英国が欧州連合(EU)から「合意なき離脱」に陥る事態が懸念される中で、年内に1300億ドル強の社債が償還を迎える英企業は、資金調達コストの上昇に直面している。一部の社債利回りは、新興国企業並みに跳ね上がるほどだ。

自動車メーカーのジャガー・ランドローバー(JLR)が最近、社債の満期到来で返済が必要な10億ドルの調達に債券市場は利用せず、代わりの手段を探すと表明したことは、こうした英企業が置かれている窮状を如実に物語る。

JLRの財務責任者ベン・バーグバウアー氏はロイターに「現在の社債発行環境は全般的にあまり好ましくなく、当社の債券はこのところのわれわれの業績を反映して額面未満で取引されている」と語り、ブレグジット(英のEU離脱)がさえない市場環境を生み出す1つの要素になっているのは間違いないと付け加えた。

フィッチは5日、JLRの格付けを引き下げ方向で見直すと発表し、その理由としてブレグジット関連リスクを挙げている。

リフィニティブのデータに基づくと、1月の英企業の起債額はわずか4億7800万ドルと、1年前の23億5000万ドルから急減した。これは世界経済の先行きが低調なことも関係している。ただリンク・アセット・サービシズによると、ブレグジット関連リスクは、ただでさえネットベースで過去最高水準の債務を抱える英企業の立場をより困難する材料だ。

特に合意なき離脱が実現した場合、多くの英企業は債務の借り換えが厳しくなったり、コストが割高になってもおかしくない。

投資家は既に英企業の社債保有に際して、同じ格付けの欧州企業債の利回りに最大50ベーシスポイント(bp)を上乗せする「ブレグジット・プレミアム」を要求している。

ロイヤル・ロンドン・アセット・マネジメントのシニア・ファンドマネジャー、パオラ・ビンズ氏は、スイスのチューリッヒ保険が今週ドイツ国債利回りに275bpのプレミアムを加えた水準で起債したが、同じ「A」格付けの英プルデンシャルの社債は、英国債プラス400bpの利回りが求められていると述べた。

合意なき離脱となれば英金融セクターの調達コストはさらに50─100bp高まるだろうという。

英国がEUとの緊密な関係を保ったまま離脱してくれれば、多くの投資家の懸念は払しょくされる。とはいえそれがはっきりしない限り、起債手続きを仕切る銀行や投資家は心もとない。

あるバンカーはロイターに、英企業にとってとりわけユーロ建ての起債が非常に難しいと語り、インターコンチネンタル・ホテルズ・グループによる昨年11月の5億ユーロの起債案件を引き合いに出した。それによると、同社は事業モデルがいかにグローバルかを延々と説明したものの、主としてフランスの多くの投資家は、既発社債がロンドン証券取引所で取引されている点から「英国銘柄」とみなし、投資を敬遠した。

<ポンド建て市場にも不安要素>

S&Pグローバルは、合意なき離脱が起きた場合、約20社の格付けが悪影響を受けかねないと警告している。これはS&Pが格付け対象としている英企業の1割に相当する。これまで住宅金融や大学、自治体といった公的セクター43社の半数は格付け見通しを「ネガティブ」としており、そうした企業はいずれもコスト高、減収などのリスクを抱えているとみられる。

ポンド建て社債市場は英企業にとってまだしも友好的だが、同市場に依存する公益、住宅、金融といったセクターは英国経済の動向と連動している。そして投資家の間では、合意なき離脱は英国を景気後退(リセッション)へ突入させるのではないかとの不安がくすぶる。また政治的に見て、野党・労働党が政権を獲得すれば、これらのセクターは国有化される恐れも出てくる。

PIGMフィクスト・インカムの欧州社債チーム責任者エド・ファーリー氏は「『もしあなたがポンド建て市場に関与する必然性がなく、英企業には根本的な問題があるとすれば、なぜあえて同市場に向かうのか』という話がある。つまりブレグジットを巡る情勢の悪化が心配されるなら、英企業の社債に対する需要は非常に冷え込むということだ」と指摘した。

<拾う神も>

それでもナショナル・グリッドが2億5000万ポンドの起債に成功したのは、なお買い手がある証拠だとの声が聞かれる。この案件には17億ポンドの応募があり、新発プレミアムはほぼゼロだった。

フィッチも、自動車や航空宇宙、不動産、エアライン、そして特に小売りはブレグジットの逆風を一番強く受けると予想しつつ、大半の企業は業績と利益率の面で痛手を被りながらも何とか乗り切るだろうとみている。

投資適格級未満のポンド建て社債は魅力的だと考えているのは、サクソバンクの債券スペシャリストのアルテア・スピノッツィ氏だ。利回りが新興国と同じ5─6%前後に達しているアストン・マーティンやヴァージン・メディアの社債を取り上げ、フィリピンの10年国債利回りが3.80%付近にある点からすれば、よりなじみのある英国資産を買う方が理にかなっているとの見方を示した。

(Virginia Furness記者、Abhinav Ramnarayan記者、Sujata Rao記者)

ロイター
Copyright (C) 2019 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中