コラム

アメリカ国民の多くが今、トランプの「信者」になっている

2020年10月15日(木)18時30分

10月5日、病院からホワイトハウスに戻ったトランプ ERIN SCOTT-REUTERS

<自己イメージを揺るがす現実は一切受け入れず、都合の悪い真実は拒絶するか誰かのせいにするトランプ。その精神は既に国民のかなりの割合に伝播している>

ドナルド・トランプの新型コロナウイルス感染が判明して1週間余り。この騒動に注目が集まるなかで、見落とされている問題がある。その問題とは、米国民のかなりの割合がいわばトランプ信者になっていることだ。それが原因で大統領選の円滑な実施が危うくなり、ことによるとアメリカが内戦状態に陥りかねない。

現職大統領の新型コロナ感染というニュースはたちまち、いかにも独裁者風の安っぽいお芝居の材料になってしまった。トランプはウォルター・リード国立軍医療センターに入院して程なく、医師の助言を聞き入れず、警護員を感染の危険にさらしてまで、病院の近くをドライブした。病院の前に集まった熱烈な支持者に謝意を示すために、ローマ法王のようにゆっくりと車を走らせるよう命じたのだ。

トランプは、入院してわずか3日で強引に退院。病院からホワイトハウスへの帰還を皇帝さながらに演出した。夕方のテレビニュースの時間に合わせて、大統領専用ヘリコプターでホワイトハウスに降り立つと、いかにも英雄然と階段を上っていった(ただし、明らかに呼吸が苦しそうに見えた)。そして「臣下」たちを見下ろし、傲然とマスクを剝ぎ取って、ヘリコプターに向かって2分間敬礼してみせた。それから2時間もたたずに、この様子をまとめた動画がトランプ陣営から公開された。

いまアメリカでは、国を揺るがしかねない2つの心理ドラマが進行している。1つは、トランプ個人の心理のドラマ。もう1つは、米国民が社会レベルで抱いている妄想のドラマだ。

トランプの精神は極めて単純だ。トランプは、物事を全て勝ち負けを基準に考える。常に勝者の「ボス猿」でありたい。その自己イメージを揺るがすような現実は、一切受け入れない。都合の悪い真実はことごとく拒絶するか、誰かのせいにするのだ。

しかし、病んでいるのはトランプだけではない。リーダーの言動は、集団の意識を形づくる力を持つ。理性や事実によって、そうした集団内の論理を覆すことは不可能だ。私はCIA時代に、そのような恐ろしい現象を経験したことがある。大統領が拷問を命じると、高潔なはずのCIA職員たちが(表面上の言動だけでなく)信念まで変えてしまったのだ。

トランプと反知性主義と人種差別主義に関して、多くのアメリカ人の間で(とりわけ共和党支持者の間で)起きているのは、まさしくそのような現象だ。アメリカ社会の多様性が高まるのに伴い、白人男性たちは心もとない気持ちになり、強い不安を感じるようになった。その結果、そうした不安をなだめてくれるような幻想のとりこになりやすくなっている。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想下回る 賃金伸び鈍化

ワールド

欧州委、中国EV3社に情報提供不十分と警告 反補助

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3

ビジネス

米雇用なお堅調、景気過熱していないとの確信増す可能
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story