コラム

安倍晋三の成績表:景気刺激策、対米対中外交、防衛力強化......もしかして史上最高の首相?

2019年12月25日(水)16時45分

I’D RATHER BE SHREDDING=シュレッダーしちゃいたい気分 ILLUSTRATION BY ROB ROGERS FOR NEWSWEEK JAPAN

<スキャンダルの証拠は全部シュレッダー行き? だが世界での日本の存在感を高めた功績は大きい。世界の首脳を査定した本誌「首脳の成績表」特集より>

アメリカ史上最高の大統領になれたはずなのに、チャンスがなかった──。ビル・クリントン元米大統領はかつて、そんな泣き言を吐いたとされる。理由は、在任中8年間に、全米を震え上がらせるような脅威も、世界的な危機も起きなかったから。

安倍晋三首相も約8年間の通算在任期間中に、世界大恐慌や世界大戦並みのピンチには直面してこなかった。だが、その間に日本の国際的プレゼンスを高め、自衛隊の足かせを取り除き、長く停滞していた経済を活性化させ、高齢化対策を進めるなど、一貫した戦略目標を掲げてきた。

こうした野心的な目標は、いずれも十分達成されたとは言い難い。それでも安倍は、日本が抱える根本的問題をはっきり認識し、総じて一貫した政策目標を掲げ、国際政治の大転換期に(とりわけ黄海の対岸に中国という巨人が台頭するなか)、日本を正しい方向に導いてきた。

優れたリーダーは、流れに身を任せるべきときと、リーダーシップをとるべきときのタイミングを心得ているといわれる。さらに、達成可能な戦略目標を定め、そのために行動を起こすべきタイミングを知っていることも、リーダーの重要な資質だと筆者は思う。その点、安倍は日本の史上最高の首相かもしれない。

安倍は、「古き良き日本を取り戻す」ことに政治家人生を費やしてきた。それは日本を戦後体制(それは国際的な舞台では一貫して消極的で、世界の覇権国家アメリカにひたすら従順な同盟国であることを意味する)から解放することにほかならなかった。

アメリカをつなぎ留めて

2006年に初めて政権を握ったときは、功績と言えるほどのものはなかった。憲法の改正手続きを推し進め国民投票法を成立させたが、求心力が低下するスキャンダルもあり短命政権に終わった。

それでも2012年に首相の座に返り咲いたとき、安倍は「ナショナリストで、ともすれば軍国主義者なのでは」といった内外の懸念を無視。第2次安倍政権発足の1年後には、靖国神社参拝を敢行した。

安倍は防衛費を10%以上増やし、インドと軍事的な戦略的パートナーシップを締結。2018年には、海上自衛隊の潜水艦を南シナ海に極秘派遣した。気まぐれで無知なアメリカ大統領が、何度も日本を見放しそうになるなか、日本の安全保障にとって必要不可欠な日米安保条約の維持にも努めた。

さらに安倍は、これまでになくキレやすくなった中国とも一定の良好な関係を築いてきた。これは日本のあらゆる首相にとって極めて重要な課題だ。その一方で、中国のアフリカにおける猛烈な投資攻勢に対抗して、独自の開発援助や外交によりアフリカ諸国の取り込みを図ってきた。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米貿易赤字、3月は0.1%減の694億ドル 輸出入

ワールド

ウクライナ戦争すぐに終結の公算小さい=米国家情報長

ワールド

ロシア、北朝鮮に石油精製品を輸出 制裁違反の規模か

ワールド

OPECプラス、減産延長の可能性 正式協議はまだ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story