コラム

今や保守主流派と一体化したオルト・ライト

2018年11月01日(木)17時00分

magw181101-altright.jpg

差別的なメッセージを掲げて演説するヤノプロス(昨年9月) Noah Berger-REUTERS

だがオルト・ライト系の本を読む知識層は少なく、一般的にも読者は非常に限られているようだ。オルト・ライトの支持層は総じて教育水準が高くなく、読書家とも言えない。

オルト・ライト系の本は主流ではないので、そこにばかり注目すると、本質を見誤る。過去35年のアメリカ政治で注目すべきなのは、極右勢力と共和党、そして右派メディアがどう融合したかだ。

テレビ、書籍、そして「思想家」

ブライトバートの元会長スティーブ・バノンはトランプ政権の首席戦略官となり、オルト・ライトを政治の主流に据えた。バノンは失脚したが、トランプの政治思想の基礎は常に白人至上主義にある。ホワイトハウスでのオルト・ライトのもう1人の大物、大統領顧問でスピーチライターのスティーブン・ミラーは、今もトランプの側近として政策に大きな影響を与えている。

オルト・ライトと「主流」の右派を融合すれば、名誉と影響力、そして資金がもたらされる。トランプと共和党の代弁者であるFOXニュースは、オルト・ライトの思想の多くを支持し、ニュース局で最高の視聴率を誇る。

大手出版社はいずれも傘下の保守系出版社から、極右の読者層の要望に応える本を出している。スレッシュホールド(サイモン&シュスター)やセンティネル(ペンギン・グループ)、独立系のレグネリーなどの出版社だ。

右派の「思想家」には、ローラ・イングラム、グレン・ベック、アン・コールター、ビル・オライリーなどFOXで人気の論客が多く、ここ約10年の間に多くのベストセラーを出している。スペンサーや『ターナー日記』などが広範なファンを集めているわけではなく、オルト・ライトが勢いを失っているように見えるのは事実だが、その思想は一部の「主流派」の保守をオルト・ライト寄りに大きくシフトさせた。

オルト・ライトの多くの主張と、国民の40%が支持する思想の違いを見分けるのは難しい。一方で、国民の60〜70%が反対しているにもかかわらず、オルト・ライトの信奉者が今も米政府を支配している。

15年以上前、私はアメリカの情報機関で働く同僚たちと共に、次のように警告した。国際テロ組織は指揮統制型から近代的分散型ネットワークに変わっている。信念や態度を共有するフラットな組織であり、複数の経路を通じて指示伝達を行う。さらに政府に対しても、国家や国民の生命にとって最も危険な脅威は、国産の極右(つまりオルト・ライト)の個人や組織だと――。

オルト・ライト運動は人種をめぐる憤りや過ぎ去りつつある時代への懐古などを原動力にしている点で、イスラム過激派を生んだ現象に似ている。エセ知識人は、ゆがんだ意見にそれなりの化粧を施す。その流れが、今や「主流派保守」のメディアや本、そして共和党を操っている。

本誌2018年10月30日号「特集:ケント・ギルバート現象」より転載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トムソン・ロイター、第1四半期は予想上回る増収 A

ワールド

韓国、在外公館のテロ警戒レベル引き上げ 北朝鮮が攻

ビジネス

香港GDP、第1四半期は+2.7% 金融引き締め長

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story