コラム

日本が月面着陸に初成功、世界で5カ国目の快挙も「60点」評価のワケ...太陽電池が機能しないことによるミッションへの影響とは?

2024年01月20日(土)17時25分
小型月着陸実証機SLIMのミニチュア模型

JAXA相模原キャンパスに展示された小型探査機SLIMの模型(2024年1月19日) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<月面着陸には成功したが、宇宙科学研究所の國中均所長は記者会見で「ギリギリ合格の60点」とコメント。太陽電池が機能しないことで、「世界初のピンポイント着陸」が成功したかの評価や、送られてくるデータの量にどのような影響があるのか。本ミッションの3つのポイントを概観する>

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は20日、小型月着陸実証機SLIMが日本初の月面着陸(ソフトランディング)に成功したと発表しました。

月面着陸はこれまで旧ソビエト(1966年)、アメリカ(同年)、中国(2013年)、インド(23年)が成功しており、日本は5カ国目となりました。

 

ただし、着陸成功から約2時間後に行われた記者会見では、SLIMに搭載した太陽電池が現時点で発電していないこと、バッテリーで駆動しているが電源は残り数時間しかもたない見込みであることも発表されました。

計画では、月の「昼」に太陽電池が作動し、機器が熱くなりすぎて電気系統などが機能しなくなるまでの数日間は、月の起源を探るために搭載された「マルチバンド分光カメラ(MBC)」で周囲のカンラン岩(カンラン石を豊富に含む岩石)の撮影を行う予定でした。

宇宙科学研究所の國中均所長は、今回のミッションについて記者会見で「100点満点でギリギリ合格の60点」とコメントしました。

着陸には成功したものの太陽電池が機能しないことで、SLIMが目標に掲げていた「世界初のピンポイント着陸」が成功したかの評価や、SLIMから送られてくるデータの量に、どのような影響があるのでしょうか。本ミッションの3つのポイントを概観しましょう。

◇ ◇ ◇

1)世界初のピンポイント着陸は確認できるか

SLIMは、正式名の「Smart Lander for Investigating Moon」が示すように、①狙った場所へのピンポイント着陸と、②着陸に必要な装置の軽量化が開発目標です。

従来の月着陸の精度は数キロから10数キロでしたが、SLIMは世界初の100メートルオーダーを目指し、「『降りやすいところに降りる』から『降りたいところに降りる』着陸へ」をスローガンにしています。また、探査機は、高さは約2.4メートル、重さは燃料を除き約200キロと非常にコンパクトで、将来の高頻度の月探査を見越してコスト削減の観点から小型・軽量になっています。

昨年9月7日に種子島宇宙センターから打ち上げられ、月の重力を利用して軌道を変える月スイングバイを用いて省エネをしながら、12月25日に月周回軌道への投入に成功しました。1月20日午前0時頃に、高度15キロから着陸降下を開始。目的地点は「神酒(みき)の海」近くの「SHIOLI(シオリ)クレーター」付近です。この場所は、SLIMの高精度の着陸技術の実証と、着陸後に行うマルチバンド分光カメラでの科学観測に適した地点として選ばれました。

月にはGPSがないので、高精度の着陸を実現するために、SLIM自身が撮影した画像と事前に用意された月面の地図を照合しながら自分の位置を把握して、必要に応じて軌道修正するシステムを導入しました。さらに、着陸の成功率を高めるために、障害となる岩があった場合は、地上のオペレーターを介さずに自律的な判断で避けることができるようになっています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story