コラム

力不足を露呈したバイデン政権の一年間

2021年12月23日(木)16時55分

バイデン政権のこの1年のパフォーマンスは外政・内政ともに信頼に足るものではない REUTERS/Kevin Lamarque

<この1年間で示されたバイデン政権のパフォーマンスは外政・内政ともに信頼に足るものではない。しかし、この惨憺たる政権は来年も継続する...... >

2021年、バイデン大統領と民主党はその左派的な理念に基づく政策遂行の出鼻をくじかれた。バイデン政権はその野心的な政策を実現するには明らかに力不足であり、山積する現実の難題への対処能力を十分に示すことができなかった。

米国の指導力への疑問を抱かせた民主主義国サミット

バイデン政権は民主主義国家を結集して対中交渉を行う方針を掲げてきた。そのシンボリックなイベントが2021年12月に開催された民主主義国サミットだ。

このサミットに集まった国々や地域は民主主義の価値を世界に示し、中国の脅威に対抗すべく一致団結するはずであった。実際にそうなったのなら、非常に意義深いイベントであっただろう。

しかし、バイデン政権が同サミットを通じて実現したことは、民主主義国と定義される国の範囲を限定し、旧来からの同盟国を蔑ろにし、招待されなかった国々を中国側に追いやったことだけであった。むしろ、台湾の地位承認に関しては極めて弱腰の態度に徹し、世界中の国々から米国の指導力に対する疑問を抱かせる結果にもなった。

中国側は着実に国力を強化し、シンパの国々を増やし、軍事的な能力を高めている。超音速ミサイル、宇宙開発、サイバー、AI、ドローンなど、いずれの力量も米国に迫るか超える勢いだ。

さらに、世界中の小規模な国家が中国の経済力の前に膝を屈し、台湾との国交を断絶する国が増加している。中国の台湾に対する軍事的圧力はバイデン政権発足後に一層の強まりを見せており、東沙諸島などの係争地域での限定的な紛争リスクは高まり続けている。今、東沙諸島で何らかの紛争が起きたなら、米国は成す術なく台湾の領土の一部を見捨てるだろう。

結局、バイデン政権が対中国で保持しているメインカードは、トランプ時代の日米豪印によるクアッドだけだ。そして、このクアッドという枠組みが現実に機能し始めている主な理由は、米国の指導力が発揮されたからではなく、他三か国が中国との個別に軍事的または経済的な衝突をしたからに過ぎない。

そのため、米国の曖昧な態度に痺れを切らし、英国と豪州が新たな軍事協力であるオーカスをバイデン大統領に提案したが、その結果としてバイデン政権は民主主義国であるフランスとの間でシコリを残すことになった。このような対応はEUを対中国側に引き込む際に障害を引き起こすが、成り行き任せの受け身のバイデン政権には何かを主体的に仕掛ける意思と能力はないだろう。そして、その根っこにあるイザという際には、アングロサクソン同士しか信用しない外交姿勢にも深い疑念が残らざるを得ない。

バイデン政権の内政の実績も惨憺たるもの

一方、バイデン政権の国内政策の実績も惨憺たるものだった。

バイデン大統領はトランプ政権の南部国境管理政策を人権侵害として厳しく追及してきた。しかし、民主党左派の方針に従って国境管理体制を緩めた結果、不法移民が大量に流入し、犯罪や薬物の流入量が増加してしまった。対応に苦慮したバイデン政権は、自らが散々批判してきたトランプ時代の国境管理政策である「メキシコ待機」政策に逆戻りしている。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

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