最新記事

ウイグル

ウイグル弾圧を「テロ対策」と呼ぶ中国の欺瞞を、世界は糾弾せよ

China's “War on Terror"

2021年9月23日(木)09時51分
イェハン(国外亡命中のウイグル人ライター、仮名)
ウイグルの中国兵

新疆ウイグル自治区で反テロ作戦の訓練を行う中国軍 China Stringer Network-REUTERS

<世界的なテロへの恐怖と強硬姿勢を逆手に、中国共産党が自らの弾圧を正当化して見せた巧妙なレトリック>

自由なメディアのおかげで、中国共産党が私たちの民族に、今まさに行っている大虐殺が大いに注目されるようになった。中国西部の新疆ウイグル自治区に暮らすテュルク系諸民族の一員、ウイグル人のことだ。この話題に触れたウイグル人ジャーナリストは実際に故郷の家族が迫害を受けているため、私も名前を伏せざるを得ない。

だからこそ、ウイグル人の窮状を詳細に報道してきたワシントン・ポスト紙が8月、中国共産党によるウイグル人虐殺を対テロ政策と称したことに、ひどく困惑させられた。中国だけでなく世界的にも、弾圧をテロ対策に仕立て上げることがいかに成功しているかという一例である。

記事は中国の研究者や専門家の言葉を引用して、タリバンの手に戻ったアフガニスタンが「東トルキスタンイスラム運動(ETIM)を含むイスラム過激派グループの避難所になることを、中国当局は懸念している」と述べている。

問題は、ETIMが「テロ組織」かどうかだけでなく、存在するかどうかさえ、疑わしいと指摘されていることだ。

ETIMは、ワシントン・ポストの記事が言うように中国の安全保障にとって恐ろしい脅威では、決してない。中国共産党がアメリカの対テロ戦争を利用して、新疆ウイグル自治区での長年の抑圧政策を正当化するために、「鬼がいる」と誇張しているのだ。

政治的なレッテル貼りは、中国共産党が反対分子をつぶす伝統的な手段でもある。中華人民共和国の建国以来、無数の人々が「右派」「社会帝国主義者」「走資派(資本主義の道を歩む実権派)」と名指しされて、迫害され追放され、あるいは死に至った。

分離独立は裏切り行為

新疆ウイグル自治区に対する「分離主義者」のレッテルは、独立運動は最悪の裏切り行為だと反射的に考えるように訓練された中国国民の怒りをかき立てたが、他の国々にはほとんど響かなかった。

しかし、2001年を機に、中国共産党ははるかに効果的な手法を編み出した。

すなわち、分離独立戦争を世界的な対テロ戦争の一環と位置付け、ウイグル人の民間人と治安部隊の自然発生的で組織化されていない衝突を、組織化されたテロ行為と見なす。それによって自分たちの民族弾圧を、欧米が自由の名の下に行う対テロ戦争と連携させたのだ。

「テロリスト」は、強力で非人間的な言葉になった。グアンタナモ米軍基地でも、自治区のウルムチの反体制デモも、このレッテルを貼られた人々は、人権や適正手続きから自動的に排除された。

テロリストのレッテルがいかに曖昧で不正確であっても、それを貼られた人々の権利を剝奪しようと、世界中が躍起になった。中国はそれを見逃さなかったのだ。

9・11テロの後、中国はすかさず国連とアメリカに働き掛け、ETIMをテロ組織に指定させることに成功した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率60%に小幅上昇 PCE

ビジネス

ドル34年ぶり157円台へ上昇、日銀の現状維持や米

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中