ウイグル弾圧を「テロ対策」と呼ぶ中国の欺瞞を、世界は糾弾せよ
China's “War on Terror"
ただし、実際にこの名前を使って活動したグループがあるという証拠はほとんどない。1998年にアフガニスタンでタリバンに支援を求めた小さなグループがそう呼ばれていたが、2003年に創設者が死んだ後は完全に活動を停止しているようだ。
アメリカは20年11月に、ETIMの存続を裏付ける証拠がないとして、テロ組織認定リストから除外した。中国はこれに対し、パフォーマンス的に怒りをあらわにした。
ウイグル人のテロリストや過激派などいないと言いたいのではない。14年に昆明駅で起きた無差別殺傷事件が物語るように暴力的な連中もいる。当然だ。ウイグル人は1200万人以上いるのだから。
だがウイグル人のテロ組織が中国内外で計画的な襲撃を行っているかと言えば、その証拠はあったとしても薄弱だ。共産党はひげを伸ばし質素な服を着た人間をテロ組織のメンバーと決め付けるが、これは自分たちが行っている残虐行為を正当化するための見え透いた歪曲にほかならない。
ウイグル人が苦しむのは自業自得だといった暗黙の感情があることも問題だ。確かにウイグル人の襲撃で罪のない人たち(その大半は漢族)が命を失う悲劇は繰り返されてきた。こうした襲撃には当然ながらウイグル人も非難の声を上げてきた。長年テロ組織呼ばわりされてきた国外のウイグル人グループもそうだ。
怒りの暴発を招く絶望
ただ、見過ごしてはならないのは、こうした事件が起きた背景だ。中国当局は何十年もウイグル人の文化、伝統、信仰、自由、さらには命まで奪おうと弾圧を続けてきた。悲しいことに、若い世代のウイグル人は「世界とはこんなものだ」と思い込んでいる。
中国では当局の理不尽な仕打ちに市民が異議申し立てをすることは不可能だ。ましてやウイグル人は、イリハム・トフティのような平和を愛する知識人でさえ逮捕され、テロリストの汚名を着せられる。こんな状況では、やり場のない怒りに駆られ暴力に走る者も出てくる。
09年のウイグル騒乱を契機に共産党が対テロ戦争のレトリックをさらに強調するようになると、それが自己充足的予言のようにテロを招いた。
私は安全なオーストラリアにいて共産党への怒りを英文記事に込められるが、完全に希望を奪われた何百万もの同胞がいることは痛いほど知っている。不幸にも、その中には暴力行為に走る者もいる。
もちろん、罪のない市民を殺す行為は許されない。だがごく少数のウイグル人が暴力に走ったからといって、ウイグル人弾圧はテロ対策だという共産党の欺瞞的な主張をうのみにしてはならない。
共産党は長年、ダブルスタンダード(二重基準)だとして、人権侵害に対する批判に耳を貸さなかった。アメリカが罪のないイスラム教徒をグアンタナモの収容施設に入れることは許されるのに、中国がテロ対策を講じれば弾圧だと言われる、というのだ。
彼らの言い分はもっともだ。いずれも許し難い行為であり、一方だけを非難するのはおかしい。アメリカがイスラム教徒に行った拷問も、中国の偽りの「対テロ戦争」も許してはならない。中国当局によるウイグル人虐殺を「テロ対策」などと呼ばないこと。まずはそこからだ。
2024年4月2日号(3月26日発売)は「生存戦略としてのSDGs」特集。サステナビリティの大海に飛び込んだ企業に勝算あり。その経営戦略を読み解く。[PLUS]初開催!SDGsアワード
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら