最新記事

テロリスクは高まるか

アフガニスタンはなぜ混迷を続けるのか、その元凶を探る

THE ROOT OF THE CHAOS

2021年9月1日(水)11時30分
新谷恵司(東海大学平和戦略国際研究所客員教授)

首都カブール近郊でタリバンとの対立姿勢を示す群衆 REUTERS/Stringer

<大国の支配と反乱を繰り返した悲劇の国家。その原因は外国の分断統治か、辺境国家の宿命か>

「帝国の墓場」の異名を持つアフガニスタンで、また1 つ「帝国」が敗れた。超大国アメリカである。

イスラム主義勢力タリバンの「復活」は何を意味するのか。なぜこの国では混乱が収まらないのか──。その答えは、アフガニスタン人とは何者か、アフガニスタンとはどのような国かを理解せずに(あるいは知りながら)、近代的な領域国家の概念で管理せんとした大国による分断統治にヒントがあるだろう。

イギリスのノーベル文学賞作家ドリス・レッシングは、著書『アフガニスタンの風』(邦訳・晶文社)の中でソ連の侵攻から7年目の1986年にパキスタンからアフガニスタンに入った時のことを、次のように語っている。

一団のムジャヒディンがホテルの木陰の芝生にすわっている。総勢九人。......顔立ちがそれぞれまったく違うことに、わたしは改めて感心してしまう。アフガン人が説明しはじめた。「アフガニスタンは起源もまちまちな多種多様の民族が集まった国だ。必ずしも互いに好意をもっているわけではない。......侵略者にたいしては団結して戦っている」(同書96ページ)

アフガニスタンを構成する最大民族は、約42%を占めるパシュトゥン人だ。次いでタジク人27%、ハザラ人9%(以下、ウズベク人、遊牧民、トルクメン人、バローチ人)、などとなっている。

アフガニスタンとはアフガン人の国(スタン)という意味だが、アフガンとはペルシャ語でパシュトゥンのことである。

つまり、あのあたりにはアフガン人が住んでいるのでアフガニスタンだという、曖昧な線引きで長らく認識されてきた地域だ。それも、アフガン人は全体の4割で、国土に標高7690メートルの最高峰を有するヒンドゥークシュ山脈が横たわっている。人々は渓谷の中で、部族を単位に暮らしを営んできた。

それを「アフガニスタンは多民族国家である」などという、近代的な領域国家の概念でくくろうとするので無理が生じるのだ。

2001年10月から始まった米英両軍と多国籍軍による「不朽の自由作戦」でテロリストを撃破した後は、アフガニスタンに自由で民主的な国民国家を建設する、という目標設定がなされた。

これがそもそもの間違いであったと、今になって評論家たちが口をそろえている。もちろん、それは01年の時点においても、ほとんど誰もが知っていたことである。「帝国の墓場」という言葉と共に。

日本も「全てを失う」側に

では、どうすれば良かったのか?筆者は当時、日本政府の復興支援政策の立案実施の中枢にいた友人に話を聞いた。結論としては、日本は欧米、特にアメリカの間違ったアプローチには気が付いていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアで米国人2人が拘束、1人は窃盗容疑の米軍兵士

ワールド

ブラジル南部洪水、死者90人・行方不明130人超に

ワールド

トランプ氏と性的関係、ポルノ女優が証言 不倫口止め

ビジネス

アマゾン、シンガポールで1.3兆円投資 クラウドイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 6

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 10

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中