最新記事

LGBTQ

サッカーEURO2020、ハンガリーに忖度したUEFAに選手・サポーターが猛抗議

Rainbow Color Chaos

2021年6月28日(月)17時30分
ジェイク・ディーン
レインボーフラッグを掲げるサポーターたち

試合当日、アレーナ前でレインボーフラッグを掲げるサポーターたち ANDREAS GEBERT-REUTERS

<LGBTQコミュニティーとの連携を掲げるUEFAがEURO2020でスタジアムの虹色ライトアップを認めなかった理由は、「政治的意図があるから」だという>

ドイツ各地のサッカースタジアムはその日、いつもよりカラフルだった。ただ1カ所を除いて......。

ミュンヘンのスタジアム、アリアンツ・アレーナでは6月23日、コロナ禍で1年延期されたサッカー欧州選手権Euro2020のグループF最終節、ドイツ対ハンガリー戦が行われた。熱戦の末2対2の引き分けとなったが、性的アイデンティティーとその受容をめぐるはるかに大きな戦いが試合に影を落とした。

試合前にミュンヘン市長は欧州サッカー連盟(UEFA)にアレーナを虹色にライトアップするよう要請した。性的少数LGBTQのコミュニティーへの連帯を示そうと、近頃ではロゴにレインボーカラーを取り入れているUEFAだが、なぜかミュンヘンの要請はきっぱり拒否。理由は政治的な意図があるからだという。これにドイツ中で抗議の嵐が巻き起こった。

UEFAがアレーナのライトアップを政治的な動きと見なしたのは、ドイツの対戦相手がハンガリーだったからだ。オルバン・ビクトル首相の強権支配下にあるハンガリーでは、未成年が見る映画などで同性愛を描くことを禁止する反LGBTQ法が成立したばかり。ミュンヘン市長のライトアップ要請はこの法律に対する「政治的な批判」だと、UEFAは見なしたのだ。

折しも6月はLGBTQの権利尊重を求めるプライド月間。UEFAの拒絶は各国のサッカー選手やサポーターをLGBTQ運動支援に駆り立てる結果となった。ドイツの議員らも独裁的な指導者から金を受け取り、その顔色をうかがうUEFAを痛烈に批判。Euro2020の試合が行われないドイツ各地のスタジアムはUEFAの指示に縛られないため、さまざまな形で虹色のライトアップを試みた。

恣意的なルールの適用

UEFAはLGBTQコミュニティーとの連携をアピールしつつも、「政治的な中立」を守るのに必死だ。政治的中立はUEFAに限らず、FIFA(国際サッカー連盟)など多くのスポーツ団体が掲げる立場。ハンガリーのシーヤールトー・ペーテル外相は「スポーツへの政治介入」は「極めて有害」だとしてUEFAの決定をたたえた。「歴史的経験からその弊害は明白だ。特にドイツは身に染みてそれを知っているだろう」

だがスポーツも人間が行う営みである以上、そこにはほぼ常に政治が入り込む。サッカーのように世界中を熱狂させ、巨額の金が動くスポーツならなおさらだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、ミシュスチン氏を首相に再任命 下院

ビジネス

中国自動車輸出、4月は過去最高 国内販売は減少に減

ワールド

UNRWA本部、イスラエル住民の放火で閉鎖 事務局

ワールド

Xは豪州の法律無視できず、刃物事件動画訴訟で規制当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカネを取り戻せない」――水原一平の罪状認否を前に米大学教授が厳しい予測

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 9

    「一番マシ」な政党だったはずが...一党長期政権支配…

  • 10

    「妻の行動で国民に心配かけたことを謝罪」 韓国ユン…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中