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北朝鮮の新型ICBMは巨大な張りぼてなのか?

A 21st-Century Spruce Goose?

2020年10月21日(水)16時45分
ハリー・カジアニス(米シンクタンク「センター・フォー・ザ・ナショナル・インタレスト」朝鮮半島研究部長)

北朝鮮は10日に実施した未明の軍事パレードで、初めて公開する大型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を披露した YTN News / YouTube

<労働党創建75周年を祝う軍事バレードで披露された最新ミサイルは実は見掛け倒し>

国民の約60%が飢餓寸前と言われる北朝鮮。だがその指導者は、国内の惨状から、壮大な軍事力へと世界の注目をそらすのが実にうまい。10月10日に行われた朝鮮労働党創建75周年を祝う軍事バレードは、その格好の例となった。

果たしてわれわれは、こうした北朝鮮の宣伝をうのみにし過ぎなのか。

確かに、ICBM(大陸間弾道ミサイル)「火星14」が2017年7月に発射されたときは、筆者を含め多くの専門家が意表を突かれた。だとすれば今回も、北朝鮮が見せつけた核能力(その高画質の写真はソーシャルメディアに広く出回っている)を額面どおりに受け取るべきなのか。

最高指導者の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が、メディアを利用する達人であるのは間違いない。アマチュア映画監督(故・金正日[キム・ジョンイル]総書記)の息子だけあって、金は北朝鮮のイメージを回復する壮大なパレードを念入りに計画し、実行に移した。

なかでも世界が注目したのは、過去最大の新型ICBMだ(専門家は火星15の後継となる火星16と見なしている)。これだけ大きければ複数の核弾頭を搭載して、アメリカのミサイル防衛システムを破り、主要都市に核の雨を降らせることができるのでは──。多くの専門家はそんな不安を口にする。

恐ろしい話だが、実のところ、この新型ミサイルは容易に克服できない大きな問題をいくつも抱えている。冷静に分析すれば、火星16は重大な脅威どころか、21世紀の「スプルース・グース」に近いことが分かるだろう。

スプルース・グースとは、実業家ハワード・ヒューズ(その人生は映画『アビエイター』に描かれた)が製造させた巨大飛行艇の別名だ。第2次大戦中に軍用輸送機として使用されることを想定していたが、製造されたのは1機だけで、飛行したのも戦後に1回だけだった。

圧倒的な見た目と、先端技術の詰まった機体は、技術者たちに大いにインスピレーションを与えたが、スプルース・グース自体は大き過ぎて、実用的な用途は見当たらなかった。北朝鮮の火星16も、同じような運命をたどる可能性がある。

実戦配備のつもりなし?

ある意味で、その欠陥は明白だ。それは、そもそもこのミサイルが実戦配備用に造られたのではなく、技術力を誇示するために実験的に製造された可能性が高いことを示唆している。アメリカの次期政権との交渉材料に使いたいという狙いもありそうだ(ドナルド・トランプ米大統領が続投するのであれ、民主党のジョー・バイデン大統領が誕生するのであれ)。

具体的には、火星16には3つの大きな問題点がある。第1に、パレードで巨大な起立式移動発射台(発射台付きトラック)に搭載されていたことから分かるように、その大きさが足かせとなるだろう。

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