コラム

憲法に基づく「トランプ公職追放」論が急浮上、その論点は?

2023年09月20日(水)14時15分

トランプは共和党予備選の第2回テレビ討論会もボイコットする予定 Leah Millis-REUTERS

<暴動や反乱に加担した公職者を追放するという憲法修正14条が注目の的に>

現在、世論調査では共和党の米大統領候補として過半数を超える支持を受けている、ドナルド・トランプ前大統領は、9月27日にカリフォルニア州で予定されている、第2回テレビ討論もボイコットする構えです。半数以上の支持があるのに、喋る時間は全員均等というようなイベントは不公平だというのが言い分です。

このままですと、トランプが2024年夏には共和党の統一候補として選出されるのは間違いないという声が高まっている一方で、ここへ来て大きな問題が浮上しています。

それは、「憲法修正14条問題」です。合衆国憲法の修正14条(第3節)には「公職追放規定」というのがあります。具体的には「官職にある者として、合衆国憲法を支持する旨の宣誓をしながら」その後、「合衆国に対する暴動または反乱に加わり、または合衆国の敵に援助もしくは便宜を与えた者」は「合衆国または各州の官職に就くことはできない」というのです。

この8月末以来、この憲法の条項がトランプに適用されるかどうか、法学者の間で活発な議論が展開されています。議論の内容は次のようなものです。

クーデター教唆でアウト?

1)大統領の座にあった2021年1月6日に、「既に敗北していた大統領選の結果を覆すクーデター」を教唆し、暴力事件を扇動したというのは、紛れもなく「官職にある者による暴動、反乱」であり、トランプは公職追放の対象になる。従って、2024年の大統領選の投票用紙には記載できない。

2)憲法解釈としては、この「公職追放条項」は即時適用がされる性格のもので、議会などの承認は不要である。(但し、憲法の条文によれば上下両院それぞれ3分の2の賛成があれば追放を解除することは可能)

3)大統領選の本選ではなく、各州の予備選においても、合衆国大統領を選ぶということは合衆国憲法の適用を受けるので、2024年1月以降の各州予備選の投票用紙にも記載できない。

これを受けて、既に訴訟合戦が始まっています。現時点では判決の動向は以下のようになっています。

4)同じように1月6日暴動に共感しつつ、バイデン当選を否定した連邦の保守派議員には「公職追放条項」を適用して、議員資格の欠格を求めた裁判があったが、基本的に「主犯でない」ことなどを理由に公職追放はされず。

5)フロリダ州で起きた「トランプを24年の選挙の投票用紙に乗せるな」という訴訟は、「原告にはそもそもこの問題を起訴する合理的な理由がない」として、却下。

となっています。では、公職追放に不利な判決が出ているからといって、トランプに適応されない可能性が高いかというと、4)に関してはトランプは主犯格ですので、この判決とは次元が異なるという説があります。5)に関しては、それこそ法廷は「トランプは公職追放の対象になるか?」という肝心の点の判断はしていないわけで、今後へ向けた判例にはなりません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story