コラム

移動寿命の延伸に寄与 免許返納後の生活を支える「シニアカー」の可能性

2021年08月13日(金)19時00分
シニアカー

シニアカーの最高時速は6キロ。免許はいらない(写真はイメージです) Togapix-iStock

<一般的な移動手段として浸透すれば、「足」に困る高齢者だけでなく、介護・送迎を担う家族や若者にとっても救いとなる>

池袋の暴走事故後、介護保険適用前に自費でシニアカーを購入する人が増えている。シニアカーの製造・販売・レンタルなどを手掛けるセリオによると、以前は介護保険でシニアカーをレンタルする人が多かったが、最近では免許返納をしないといけないため、家族が探して自費で買う人が増え、新たなマーケットができたという。

「免許を返納すると移動手段がない」

バスの廃線が問題となり、一部の都市部を除けば移動手段の選択肢がクルマ以外になくなってしまっている。免許返納後の移動手段として自転車を検討する高齢者が多いが、体力が落ちてから自転車へとスライドするのは簡単なことではない。メディアではいろいろな最先端のパーソナルモビリティが登場しているように見えるが、法整備は進まず、量産化や販売ネットワークの構築もできていないため、ほとんど生活者には届かない。家族の付き添いが要らず、高齢者が自由に遠くまで出掛けられる移動手段は、実はシニアカーくらいなのだ。

道路交通法上は「歩行者」

シニアカーは「ハンドル形電動車いす」といって、電動車いすの一つだ。電動車いす安全普及協会によると、電動車いすには大きく分けて「介護用」と「自操用」の2種類がある。「介護用」は文字通り病院や施設などで見かける電動車いすで、介護を行う際に介護者の負担を軽減するために作られている。「自操用」は、高齢者ら本人が操作して移動するためのものだ。

「自操用」も自操用標準形、自操用ハンドル形、自操用簡易形の3つに分けられる。自操用標準形は片手でジョイスティックレバーを操作して乗るタイプで、最近よく見かけるようになったWHILL(ウィル)はこの部類に入る。自操用ハンドル形は、自転車やバイクのように両手でバックミラーのついたハンドルを握って操作する。自操用簡易形は手動の車いすに電動ユニットを取り付けた電動車いすで、片手でジョイスティックを操作する。電動車いすは、道路交通法上は「歩行者」扱いとなり、クルマなどの運転免許は不要で、歩道を走行することができる。ナンバープレートや駐車場もいらない。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EXCLUSIVE-チャットGPTなどAIモデルで

ビジネス

円安、輸入物価落ち着くとの前提弱める可能性=植田日

ワールド

中国製EVの氾濫阻止へ、欧州委員長が措置必要と表明

ワールド

ジョージア、デモ主催者を非難 「暴力で権力奪取画策
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 10

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story