コラム

移動寿命の延伸に寄与 免許返納後の生活を支える「シニアカー」の可能性

2021年08月13日(金)19時00分

筆者は、電動車いすを用いて免許の要らない移動手段とまちづくりを考える「次世代タウンモビリティプロジェクト」を2016年頃から3年間実施した。移動手段のなくなってしまった地域で、最も有用な移動手段をこの3つの電動車いすから選ぶとすると、「自操用ハンドル形(シニアカー)」だと考える。

その理由としては、家庭用100ボルトのコンセントで掃除機のように充電でき、立体駐車場のような坂でも上れるなど登坂性に優れ、荷物も運べて、前方にハンドルがあるため段差があった場合に身体が投げ出されない安心感があるからだ。車両価格は40万円弱だが軽自動車よりも安い。介護保険を適用すれば数千円程度でレンタル可能で、中古車両なら20万円弱で購入することもできる。最高速度は6キロで、計算上は1キロ先のスーパーに10分で行けることになる。

他の電動車いすは、近距離移動や段差の少ない場所を想定して作られているため、長距離移動や買い物には不向きだった。

試乗や正しい知識が必要

シニアカー選びで大事にしたいのが、いろいろなメーカーを試乗することと購入後のサポート体制を知ることだ。高齢者の身体の衰え方や生活環境は各々異なる。操作性が自分に合わない場合もあり、覚えるまでに練習する必要もある。せっかく買ったものの使わない人もいる。歩行者扱いと言えども機械を操って移動するため、自転車やクルマのように正しい扱い方や交通ルールを知らなければいけない。

例えば、冒頭で紹介したセリオは全国に店舗を持ち、試乗体験を無料で提供している。また安全運転指導を行っており、安全運転指導員(社内資格制度)がシニアカーの操作方法、交通ルール、安全な経路の設定、駐車場所や充電方法の説明などを自宅で実施してくれる。さらにシニアカーの定期点検や清掃も実施しているため、その際に不安なことも相談できる。セリオはシニアカーのみならず、四輪・三輪の電動自転車も扱っており、自転車かシニアカーか迷っている人にとっては、相談に乗ってもらえるので心強い。

できるだけ若いうちに、いつか来る免許返納に備えてシニアカーに試乗しておくことをおすすめしたい。試乗したタイミングが遅かったがために、新しい移動手段の操作を覚えることへの抵抗からシニアカーを運転できない人も多いからだ。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金融当局、銀行規制強化案を再考 資本上積み半減も

ワールド

北朝鮮、核抑止態勢向上へ 米の臨界前核実験受け=K

ワールド

イラン大統領と外相搭乗のヘリが山中で不時着、安否不

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story