コラム

ドイツで進む「新しいクルマ」のあり方 企業も市民も行政も価値観を変えた

2020年08月07日(金)18時50分

ベルリンのタクシーはメルセデス・ベンツとトヨタ・プリウスに二分される。ベンツのお膝元でも、プリウスの評価は高い。写真はトヨタ・プリウス。車体にはFREE NOWのロゴがある

<ベルリンでは、数年前からMaaS(サービスとしてのモビリティ)の可能性を実感できるサービスが次々と登場している......>

ドイツには226のカーシェアリング・プロバイダーがある

人が移動する手段や、社会の交通システムと情報コミュニケーションとを最適化するのがモビリティ・マネージメントである。これは「サービスとしてのモビリティ(Mobility as a Service: MaaS)」としても知られ、より個人化された移動サービスの基盤でもある。世界中でMaaSの市場に勢いが生まれた背景には、ライドシェアリング、配車サービス、バイクやスクーターを含むカーシェアリング・サービスなど、革新的なモビリティ・サービスプロバイダーの急成長がある。

特にカーシェアリングや自動運転車をオンデマンドで手軽に利用できれば、自家用車を所有することの経済的デメリットは顕著となる。MaaSへのシフトは、シームレスに複数の交通チェーンをスマホ・アプリに統合することで、移動のすべての区間で予約とキャッシュレス支払いを一括管理できる利点がある。

ここベルリンでは、数年前からMaaSの可能性を実感できるサービスが次々と登場している。クルマと人、公共交通システムと人とをつなげる革新的なソーシャル・アプリを介したサービスが次々に生まれ、都市のモビリティに大きな変化が到来している。内燃エンジンから電気自動車への急速なシフトも、環境負荷に配慮した次世代のクルマ社会の顕著な動向である。

中でも、自動車大国ドイツの各都市では、クルマを所有せず、クルマを複数の人と共有するカーシェアリング市場が急拡大してきた。ドイツ・カーシェアリング協会の調査によれば、現在、ドイツには226のカーシェアリング・プロバイダーがあり、国内840か所でクルマの共有(シェア)が実施されている。ドイツ国内で229万人の顧客が登録されていて、利用されるクルマは25,400台を数える。パンデミックによるロックダウンで一時サービスが休止状態に追い込まれたが、今は市内の移動や近場の旅行などのニーズに対応し復活している。

今やクルマはスマホのアクセサリーか?

ベルリンはオーガニックやビオ(Bio)食品、エコ・ビジネスなど、ライフ・イノベーション産業の中心地でもあり、循環型持続社会への取り組みは、ドイツの基幹産業である自動車産業にも劇的な変化を促してきた。この変化の主要な要因は、クルマと人を直接つなげるスマホ・アプリの威力である。個人のモビリティ・マネージメントの大半は、情報のモビリティとなり、今やクルマはスマホのアクセサリーとさえなっている。人々の新たな情報器官となったスマホは、実体経済の仲介役としてさまざまなビジネスをもたらしてきた。スマホというソーシャル・インフラこそ、既存産業のすき間に様々なビジネスを生み出すプラットフォームである。

ドイツの自動車産業界が、相次いでカーシェアリングを軸にした新ビジネスに参入した背景には、未来の自動車産業の課題が反映されている。単にクルマを個人に販売するだけでなく、クルマが社会全体の中でどう存在すべきなのか?そのひとつの答えが、カーシェアリングによるモビリティ社会の再構築なのだ。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米制裁は「たわ言」、ロシアの大物実業家が批判

ワールド

ロシアの石油・ガス歳入、5月は3分の1減少へ=ロイ

ビジネス

中国碧桂園、清算審理が延期 香港裁判所で来月11日

ワールド

米声優、AI企業を提訴 声を無断使用か
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story