最新記事
感染症

「沈黙のパンデミック」が新生児を襲う...抗生物質が効かない薬剤耐性の病原体が増加

The Silent Pandemic

2023年12月8日(金)13時40分
ジェス・トムソン(本誌科学担当)

231212P62_KSB_01.jpg

薬剤耐性は特に新生児にとって危険だと研究者らは指摘する ANDREW BROOKES/GETTY IMAGES

毎年1000万の死者が

東南アジアおよび太平洋地域の11カ国を対象にした今回の調査では、抗生物質「セフトリアキソン」が、今では新生児の敗血症や髄膜炎の治療において3例に1例でしか有効でないことが判明した。別の抗生物質「ゲンタマイシン」も、新生児の敗血症の2例に1例でしか効果が認められなかったという。

薬剤耐性の問題は、高度な医療技術を使えない東南アジアや太平洋地域の諸国だけではなく、アメリカやその他の地域でもますます大きな問題になりつつある。

ハドソンは「臨床的に使用可能な(つまり安全性の確認されている)抗生物質に耐性を持つ細菌に感染している患者は現在でも約280万人に上り、このうちアメリカでは3万5000人、世界全体では70万人が死亡している」と指摘。「しかるべき対策を取らなければ、2050年の時点で毎年1000万の死者が出るだろうとWHOは警告している」と述べた。

今回の論文は、薬剤耐性の問題は子供にとって特に深刻だと指摘している。新たな抗生物質の開発に当たって小児が臨床試験の対象になる例は少なく、小児への投与が認可される可能性も低いからだ。

豪シドニー大学公衆衛生大学院の感染症専門家で、論文の筆頭著者でもあるフィービー・ウィリアムズはメディア向けの声明で、「抗生物質に関する臨床研究の焦点は成人に向けられており、あまりに多くの場合、小児や新生児は置き去りにされている。だから新たな治療法を開発しようにも手段やデータが非常に乏しい」としている。

この状況を改善するには、新薬の開発にさらなる投資を行う必要がある。「アメリカでは世界の他のどの国よりも、製薬会社が抗生物質に高い価格を設定できる。だから患者にとっても医師にとっても、それだけ選択肢が多いと言える。しかし、それでも新薬の開発には莫大な金がかかる」とバローズは言う。

さらにバローズによれば、ほとんどの製薬会社は「もう新しい抗生物質の開発に関心を持っていない」。数日、あるいは数週間で症状が治まる感染症よりも、「慢性的な症状を治療するために長期の投与が必要になる薬剤のほうが儲かる」からだ。

耐性菌が増えている今の時代に、これは大きな問題だ。バローズは言う。「今でさえ(強力だが副作用も強い)『最後の砦』の薬剤を使わざるを得ない。この最後の砦が破られたら、もう打つ手はない」

20240514issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月14日号(5月8日発売)は「岸田のホンネ」特集。金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口……岸田文雄首相が本誌単独取材で語った「転換点の日本」

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアとの戦争、2カ月以内に重大局面 ウクライナ司

ビジネス

中国CPI、3月は0.3%上昇 3カ月連続プラスで

ワールド

イスラエル、米兵器使用で国際法違反の疑い 米政権が

ワールド

北朝鮮の金総書記、ロケット砲試射視察 今年から配備
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカ…

  • 6

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    礼拝中の牧師を真正面から「銃撃」した男を逮捕...そ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中