【MVP記念】100年の歴史に残る2023年の大谷翔平、その軌跡と舞台裏――地元紙の番記者による独占レポートを全文公開

ONE FOR THE HISTORY BOOKS

2023年11月18日(土)18時10分
ジェフ・フレッチャー(オレンジ・カウンティー・レジスター紙記者)

OHTANISPECIAL2.jpg

「大谷ルール」が導入され、投打の日を分けるという管理が廃止された RONALD MARTINEZ/GETTY IMAGES


それ故に21年のシーズン直前、何よりも重大な変更がなされた。体が耐えられるかどうかは、本人の判断に委ねることになったのだ。球団側が休養日を決め、投げる日と打つ日を分けるといった管理は廃止された。

大谷が自分の体と相談し、できると思ったら試合に出る。投げる。そういう話になった。

結果、次の3年は球史に残る偉大なシーズンとなった。21年の成績は故障で消化不良の18年と同じ程度だったが、大きなけがもなくシーズンを完走。MLB3位の46本塁打。23試合に先発して防御率は3.18。満場一致でリーグMVPに選ばれた。

22 年にも同じ快挙をやってのけた。打者としての成績は少し落ちて34本塁打だったが、投手としては防御率2.33で向上した。リーグMVPの投票では2位、リーグ年間最優秀投手に贈られるサイ・ヤング賞の投票でも4位につけた。

23年にはシーズン開始前のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で獅子奮迅の大活躍。打率.435、防御率1.86で日本を全勝優勝に導き、MVPに選ばれた。シーズン中も順調に勝利を重ね、防御率は3.14。本塁打は44本。2度目のMVPも見えてきた(※編集部注:大谷は11月16日、MLB史上初となる「満票2度目」のMVPを受賞した)。

3年連続でMVPの候補になる選手はめったにいない。実に素晴らしい才能だが、見逃してならないのは彼の適応力の高さだ。二刀流で頂点に立ってなお、彼は勝つためならば自分のやり方に固執せず、変化を加えることを恐れない。

大谷の決め球といえば「スイーパー」だが、制球が定まらないと見ると、すぐに別の球種を使い始める。相手投手がなかなかストライクを投げてこなければ我慢して四球を選び、好球必打でホームランを量産した。

そうして今シーズンも文句なしの成績を残したが、過去2シーズンと違って、途中で肉体に限界が来た。8月に入ると再び右肘の損傷が見つかり、ファンや関係者の間で彼の起用法に関する議論が再燃した。

シーズン前半の大谷は完璧だった。7月にはダブルヘッダーの第1試合でデトロイト・タイガース相手に自身初の完封試合を達成。その後の第2試合では2本のホームランを放った。

「今日は野球史に残る最も偉大時代な一日だった」と言ったのは、大谷に2本塁打を食らったタイガースの投手マット・マニング。「まったく信じられないよ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米5月住宅建設業者指数45に低下、1月以来の低水準

ビジネス

米企業在庫、3月は0.1%減 市場予想に一致

ワールド

シンガポール、20年ぶりに新首相就任 

ワールド

米、ウクライナに20億ドルの追加軍事支援 防衛事業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中