最新記事

BOOKS

彼氏は仕事熱心で理想的だった、ギャンブル癖を除けば。彼女も沼に入り込み「もう何も感じない。でも、やめられない」。なぜ依存してしまうのか

2023年9月20日(水)23時00分
印南敦史(作家、書評家)

ちなみに年下の彼氏は仕事熱心で頭の切れるタイプであり、周囲の人を引っぱっていくリーダー的な存在。まじめで、頼りがいがあったのだという。いわば、理想的な恋人だったわけだ。ただ一点、ギャンブル癖を除けば。

だからいつしか彼女も、好きな相手の影響を受けて競艇の刺激に取り憑かれていく。


 自分で稼いだ金が、次々に泡のように消えていく。ギャンブルに無縁な人は「好きでやっているんだから、自業自得でしょ」と侮蔑の表情を向けてくる。
 違う、好きでやっているんじゃない。ギャンブルなんかつらいだけ。楽しいと思っていたのは、最初だけだった。勝っても、負けても、もう何も感じなくなった。それでも、やめられない。どうしたらいいのかわからない......。(58ページより)

例えば彼らが典型的な社会不適合者だったとしたら、どんどん壊れていったとしてもまだ理解はしやすいのかもしれない。ところがそうではなく、本書に登場するギャンブル依存者の多くは"普通の人"であり、いわゆるエリートに分類されるタイプも少なくないのだ。

では、なぜギャンブルに依存してしまうのか?


 ギャンブル依存は、アメリカ精神医学会がアルコールや薬物などによる「物質関連障害および嗜好性障害群」と同様に分類している疾病(disorder)だ。ギャンブルをやらない人には、「なぜ、すっぱりやめられないのか?」とまったく理解できない。だが、ギャンブルを続けることで、過剰な刺激を受けた脳内の新経路である「報酬系」に異常が生じている「病気」なのだ。(77~78ページより)

病気なのだとしたら、気になるのは「ギャンブル依存は治療できるのか?」という点である。しかし残念ながら効果的な薬剤はなく、限られた医師の診療時間の中で、患者の意識を変えていくには限界があるようだ。

しかもアルコールや薬物などのように、患者を強制的に入院させ、体内の依存物質を抜くこともできない。そこが、ギャンブル依存の難しいところなのだろう。

つまり、そこかしこに存在するギャンブルの沼は、一朝一夕に解消できるようなものではないのである。

ギャンブルを容認する日本社会の構造

では、ギャンブル依存を解決する手立てはないのだろうか? このことについて、公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会の代表理事である田中紀子氏はこう主張している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ソニーG、9月30日時点の株主に株式5分割 上限2

ビジネス

ソニーGの今期、5.5%の営業増益見通し 市場予想

ワールド

社会保険料負担の検討、NISA口座内所得は対象外=

ワールド

米、中国関連企業に土地売却命令 ICBM格納施設に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 5

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 9

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 10

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中