最新記事

米中関係

「パンダ大使」に長いお別れ...米中友好の象徴、両国関係の冷え込みで今後はどうなる?

The Panda Party's Almost Over

2023年9月14日(木)17時00分
リシ・アイエンガー

半世紀以上にわたって、パンダは国立動物園の目玉であり、米中友好の象徴であり続けてきた。きっかけは、米中国交正常化への道をつけた1972年のリチャード・ニクソン米大統領による訪中だ。中国滞在中、北京動物園でパンダに感嘆した大統領夫人パットに、中国の周恩来首相は「何頭か差し上げましょう」と告げたという。

国立動物園にリンリンとシンシンが到着したのは、その数週間後だ。それぞれ92年と99年に死亡するまで、同動物園で飼育された。カップルの間には赤ちゃんパンダ計5頭が誕生したが、いずれも生後数日で死亡している。

一方、2000年12月に国立動物園にやって来たメイシャンとティエンティエンは、運に恵まれていた。05年7月に誕生した最初の子、タイシャン(泰山)は10年に中国に返還。13年にバオバオ(宝宝)、15年にはベイベイ(貝貝)が生まれ、それぞれ17年と19年に中国へ送られた。

3頭がワシントンで誕生したのは、メイシャンとティエンティエンの貸与に関する国立動物園と中国野生動物保護協会の合意が定める期限が、2度延長されたおかげだ。新型コロナのパンデミック期間中の20年8月には、シャオチージーが思いがけず誕生(そのため「小さな奇跡」と命名された)。同年12月、さらに3年間の返還延長が決まった。

だが、延長措置はこれが最後だ。代わりのパンダが来年、国立動物園に送られるという知らせもまだない。

「当園は3頭の個体を日々飼育することに専念している」。国立動物園のブランディ・スミス園長は、シャオチージーの誕生日のお祝いを見守りながら、筆者にそう語った。中国へのパンダ返還は「複雑なプロセス」で、当面はそれが最優先課題だという。「その後で、未来に向けて次の段階に集中することになる」

国立動物園のパンダ飼育をめぐる不確実性は、ニクソン訪中以来、最悪ともいえる米中関係の冷え込みと同時に発生している。両国間には相互不信が根を張り、対中追加関税や輸出規制、投資削減、中国のスパイ気球によって悪化。パンダという大使は、米中対立に巻き込まれた新たな被害者になるかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、16-17日に訪中 習主席との関係

ワールド

バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導

ワールド

ゼレンスキー氏、支援法巡り米国務長官に謝意 防空の

ビジネス

アングル:日銀オペ減額、早期正常化の思惑増幅 長期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中