最新記事

環境

温暖化対策で注目のCO2回収テクノロジー「DAC」 世界最大規模のプラントが続々と稼働するワケ

2023年3月7日(火)20時15分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

アメリカでも巨大DACプラントが建設、年内に稼働へ

アメリカでは、アイスランドのマンモスを上回るDACプラントを建設中だ。ロサンゼルスのカーボン・キャプチャー社とテキサス州のフロンティア・カーボン・ソリューションズ社による「プロジェクト・バイソン」の建設場所はワイオミング州で、2023年内の稼働開始を予定している。予想図を見ると、そのサイズに驚く。

バイソンのCO2回収量は4段階を想定している。最初は年間1万トンで、2段階目の2026年には20万トン、そして最終的に2030年には500万トンに達する。これは、1年間に100万台のガス自動車が排出するCO2量に相当するという。回収したCO2は地中深くに埋める。カーボン・キャプチャー社のサイトには、「2030年の最終時点で、単一のDACプロジェクトとしてはバイソンが世界最大になるだろう」と書かれている。

バイソンでは回収するCO2量を計測し、CO2削減クレジットを販売する計画だ。企業や個人がこのクレジットを購入すると、カーボンオフセットができる。先のスイスのクライムワークス社でもカーボンオフセットの仕組みをすでに導入しており、大企業も続々とクレジットを購入している。

アメリカでは、ほかにも巨大プラントの建設が進んでいる。カナダのカーボン・エンジニアリング社は、昨年、テキサス州で大型DACプラント建設に着手した。完成すれば、年間100万トンのCO2が回収できる。このDACプラントはグローバル展開を目指しており、2035年までに同じ機能のプラントが世界100~130カ所に建設されるシナリオを描いている。

アウディは、独自のDAC設備完成

DACには、専門企業のほか一般企業も取り組んでいる。昨秋、大手自動車メーカーのアウディは、オーストリアのリンツのグリーンテック企業と共同でDACの開発を進めていると発表した。同市近郊に建設したDAC施設を基に、将来、より規模が大きいDAC施設の建設を検討中だという。

DACは将来のCO2削減の一端を担うと期待されている。現在進行中の大型DACプラントなどがすべて実現すれば、2030年には、DACによるCO2回収量はほぼ9千万トンに達し、2050年には9億8千万トンになるという。これは、2050年に回収される全CO2排出量(CO2は発電所や工場などからも回収される)の約13%にあたる(国際エネルギー機関の文書、15ページ)。

日本でも政府がDACを支援している。将来、DACは、太陽光発電のように一般の人たちにも馴染みがあるように変わっていくのだろう。


s-iwasawa01.jpg[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中