最新記事

トルコ

怒れるエルドアン、その真の標的は──根幹にある「アメリカ不信」

Turkey’s Real Problem

2023年1月31日(火)12時20分
ハリル・カラベリ(中央アジア・コーカサス研究所上級研究員)

230207p44_TRK_02.jpg

トルコのアカル国防相は「醜い活動」に抗議してスウェーデン国防相との会談を中止した ARIF AKDOGANーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

トルコの支持を得てNATO加盟を果たすため、スウェーデン政府は国民を説得する必要がある。トルコの要求に応じても「ファシズム」に屈することを意味するのではないと国民を納得させ、反トルコ感情の高まりを抑制しなくてはならない。

しかし、簡単な仕事ではない。欧米諸国、特にアメリカが今もクルド人民兵組織を支持し続けているからだ。トルコにすれば、アメリカがPYDとYPGを支持している限り、「トルコの要求どおり西側諸国と対テロの共同戦線を張る」というスウェーデン政府の約束は信用できない。

クルド人寄りの姿勢を取ってきたスウェーデンを、トルコが問題視するのは当然だろう。だが実際は、アメリカがシリアのクルド人勢力を支持し続けることのほうが、トルコにとって大きな懸念材料だ。

スウェーデンはフィンランドと共に、シリア北部で自治区を築いたクルド人組織とPKKのつながりを西側諸国では初めて指摘し、クルド人組織がトルコに安全保障上の脅威をもたらしていると指摘した。これはトルコ政府にとって外交面でプラスの材料だ。

しかし、トルコがそれだけで満足するはずはない。本当の問題はスウェーデンの言動ではなく、アメリカがシリアにおいてトルコの国家安全保障上の利益に影響を及ぼす行動を取るかどうかだ。その点が、アメリカが強く支持するNATO北方拡大に対するトルコの立場を決定付ける。

シリアで過激派組織「イスラム国」(IS)と戦い、PKKと結び付きもあるクルド人民兵組織に、アメリカは資金や武器を提供している。トルコがIS掃討にあまり熱心ではなかった頃に、クルド人民兵組織がISとの戦いで成果を上げたことが、アメリカが彼らに頼っている理由の1つだ。しかしアメリカにとっての安全保障上の資産が、トルコにとっては自国の存続に関わる脅威に映る。

トルコとシリアの長い国境沿いにクルド人自治区が築かれたことで、トルコの安全保障当局は国内のクルド人地域に対する支配を失う危険性を感じ取った。さらにアメリカがクルド人自治区を支持したために、アメリカに対するトルコの信頼は大きく損なわれ、多くの国民がアメリカを敵対国家と見なすようになった。トルコが防衛措置としてロシアとの関係改善に動いた背景には、アメリカに対抗する意図もあった。

それでもアメリカは、シリアでのクルド人民兵組織との連携は不可欠だと考えている。この連携により、米軍は将来起こり得るイランとの紛争に備えて、シリア国内に前進基地を築けている。それを考えると、アメリカが方針を転換してトルコの要求を受け入れることは考えにくい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中