最新記事

ウィル・スミス

アカデミー賞「ビンタ」騒動、黒人男性が絡むと些細な暴力事件も炎上するアメリカ社会

Don’t Blow Up This Slap

2022年4月5日(火)18時54分
ジョエル・アンダーソン
ウィル・スミスの平手打ち

スミス(右)はアカデミー賞授賞式でロック(左)に平手打ちを食らわせた BRIAN SNYDERーREUTERS

<人種問題や女性差別などと結び付けた解釈があふれたが、事の本質は侮辱されたと感じた男性が暴力に走っただけのこと>

俳優のウィル・スミスがアカデミー賞授賞式で「平手打ち事件」を起こす1カ月前、やはりアメリカ中の関心を集めた平手打ち事件があった。

騒ぎが起こったのは、大学バスケットボールのミシガン大学とウィスコンシン大学の試合直後。敗れたミシガン大学のヘッドコーチを務めるジュワン・ハワードが、ウィスコンシン大学のヘッドコーチ、グレッグ・ガードに向かって「あれは忘れないからな」と悪態をついた。

「あれ」とは、ウィスコンシン大学の勝利が確実になった試合終了直前にガードがタイムアウトを取ったこと。試合の流れを止めようとするもので、勝利が確実な段階でやるのはスポーツマンシップに反するという主張だった。

この一言が両チームの小競り合いに発展。興奮したハワードが、ウィスコンシン大学アシスタントコーチのジョー・クラッベンホフトに平手打ちを食らわせた。だが程なく双方とも落ち着きを取り戻し、大乱闘には至らなかった。

3月27日のアカデミー賞授賞式でスミスが壇上に乱入したとき、筆者はこの2月の騒ぎを思い出していた。

築き上げたイメージを自らぶち壊したスミス

アカデミー賞の騒動のきっかけをつくったのは、長編ドキュメンタリー賞のプレゼンターとして登場したコメディアンのクリス・ロック。彼はスミスの妻ジェイダ・ピンケット・スミスの坊主頭をネタにして、デミ・ムーアが短い髪で出演している映画『G・I・ジェーン』の「続編が楽しみ」と口を滑らせた。

するとスミスが早足で壇上に向かった。何が起こったのか周囲が理解できないうちに、彼はロックの横っ面をひっぱたいていた。ロックはとっさに「スミスにビンタされちゃったよ!」と反応。明らかに動揺していたが、どうにかその場を切り抜けた。

この展開は、マンネリ化した授賞式を何とかしようという演出にも思えた。だがスミスは席に戻ると、ロックに向かって「おまえの汚い口で妻の名を呼ぶな!」と2度怒鳴りつけた。演出ではないことは、この時点ではっきりした。

スミスは自ら築き上げたイメージを、誰にも想像できない劇的な方法でぶち壊した。彼はこの後、テニス界のスターであるウィリアムズ姉妹の父親を演じた『ドリームプラン』で、主演男優賞を獲得。受賞スピーチでは自らが演じた父親を「家族を徹底的に守った人」と表現し、自分を彼になぞらえようとしたが、言い訳がましくて効果的な釈明にはならなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー

ワールド

焦点:中国農村住民の過酷な老後、わずかな年金で死ぬ

ワールド

アングル:殺人や恐喝は時代遅れ、知能犯罪に転向する

ワールド

ロシアとの戦争、2カ月以内に重大局面 ウクライナ司
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの文化」をジョージア人と分かち合った日

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 6

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 7

    「未来の女王」ベルギー・エリザベート王女がハーバー…

  • 8

    「私は妊娠した」ヤリたいだけの男もたくさんいる「…

  • 9

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中