最新記事

南シナ海

インドネシア・マレーシアの海洋開発に中国が圧力 五輪ボイコット論争の陰で南シナ海進出を強化

2021年12月19日(日)15時44分
大塚智彦

こうした状況で中国は11月にフィリピンのEEZ内にあるフィリピン海軍の座礁船を撤去するよう要求。11月16日には座礁船に駐留するフィリピン兵士に食料などを輸送する民間船舶に対して中国海警局の船舶が進路妨害と放水を行い、民間船舶が損傷を受けるという事件も起きている。

さらにマレーシアのボルネオ島北西部海域にある海底資源を調査する中国の調査船が、マレーシアの抗議にも関わらず11月以降も調査を継続。両国関係が緊張する状況となっている。

同海域には以前から中国の航空機が接近して、マレーシア空軍が警戒強化するなどの事態が起きており、そこに今回は調査船を派遣してマレーシアのEEZで海底資源調査を強行しているのだ。

G20議長国となるインドネシアを圧迫?

こうした中国側の姿勢の背景には2022年10月インドネシア・バリ島でのG20サミット開催があるのは間違いないといわれている。

東南アジア初のサミット開催で、議長国を務めるインドネシアは米中首脳をはじめとする先進国首脳が顔を揃えるサミットを主導する立場を担うことになる。

同サミットで中国の南シナ海における一方的な海洋権益主張、拡大に対する警戒感を共有する各国に対して、インドネシアがどう協議をリードするのかが中国にとっては重要問題となっている。このため、今回のインドネシアの海洋開発への抗議も、マレーシア、フィリピンに対するものと同様、強硬姿勢を示し既得権益を主張するための示威行為とみられている。

ロイター通信によると中国の抗議に対してインドネシア側は「掘削は中止しない」とこれまでの姿勢を改めて表明したとしている。

中国はまた別の書簡で8月に実施したインドネシア軍と米軍の共同演習にも抗議しているといい、必要以上にインドネシアが米国と接近するのを警戒しているといえる。

こうした動きをみるにつけ、2022年も10月のG20に向けて中国がインドネシア、マレーシアそして5月に大統領選を迎えるフィリピンに対して高圧的な態度と挑発行動をさらに強めていく可能性が高く、南シナ海の緊張状態はさらに高まることが予想されている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

東芝、26年度営業利益率10%へ 最大4000人の

ワールド

中ロ首脳会談、包括的戦略パートナーシップ深化の共同

ビジネス

ホンダ、電動化とソフトに10兆円投資 30年までに

ワールド

ロシア軍、ウクライナの全方面で前進している=ショイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 8

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 9

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中